「ヒヤリハット」とは、事故にまではならなかったものの事故に直結してもおかしくないちょっとしたミスやヒヤリとしたこと、ハッとしたことを表しています。
英語ではインシデント(incident)といい、事故が起こる寸前の兆候を意味しています。
大きな事故が1件起こればその背景には小さな事件が29件、 ヒヤリ・ハットが300件起きている「1:29:300」ハインリッヒの法則があります。
このように、たくさんのヒヤリハットの積み重ねが事故につながっていくわけです。
介護におけるヒヤリハットとは「介護事故にはつながらなくても、事故になっていた可能性のある体験・事例」のことをいいます。
これを意識しておくだけで、介護現場における事故やトラブルは大きく減らすことができます。
今回は介護現場で起こりうる様々な「ヒヤリハット」を、事例を挙げながら解説します。
目次
ヒヤリハット報告書とは?
事故につながる恐れのある状況報告、気付きレポートを「ヒヤリハット報告書」といい、文字通りヒヤッとしたケースを記録として書き残したものです。
介護の現場からは、ヒヤリハット報告書のほうが事故報告書よりも大切であるという声も上がっているほど、その重要性が認知されています。
報告書の形式にとらわれず思いついたときにヒヤリハット報告書を記入し、たくさんの職員の目にふれる場所に貼るといったことで、施設内の危険個所や、 事故が起こりやすい介助の種類に気付き、対処することができます。
介護士が行う大切な業務の一つですが、ほかにも大切な業務があるのでこちらの「【介護士の仕事】あまり知られていない仕事内容を徹底解説します」もあわせてご覧ください。
起こりやすいヒヤリハット事例30選
以下に、介護施設などにおいてしばしば共有されることの多いヒヤリハット事例をリストにまとめました。
本記事では、これらのヒヤリハット事例に関して以下内容を示していきますので、介護現場などにですぐ意識できるよう是非ご参考ください。
- 原因
- 対策
まずは事例集です。
- 移乗介助時に手すりに接触して手に擦り傷を負ってしまう
- 介護士が近くにいない時にご利用者が車椅子から立ち上がろうとして転落しそうになる
- 施設内で仰向けになっているご利用者が発見される
- ベッド脇に座り込んだ状態でいるのを発見される
- 寝返りをした際にベッド脇に転落しそうになる
- ご利用者の両手首付近に内出血を発見する
- 体位交換時に壁におでこが当たりそうになる
- ひげ剃り介助中にカミソリで切り傷を負ってしまった
- 吸い飲みで水分を補給する時にむせかえってしまった
- 熱いお茶がこぼれ、太ももにかかってしまった
- 食事中に苦しそうな表情になる
- 隣の席の薬入りのお粥を食べてしまう
- 本来はミキサー食なのにキザミ食が準備されていた
- 食事介助中に口内に火傷させてしまう
- 食事後、口腔ケアをしていると血が出てきた
- 朝食前の薬の服薬介助を忘れてしまう
- 夕食後の薬と朝食後の薬を間違ってしまう
- 掃除中に床に落ちている薬(錠剤)を発見する
- 二人分の薬を同時に持って間違える
- おやつ(ゼリー)介助時に誤嚥される
- 家族の方と大福を食べているのを発見する
- ティッシュを口に含んでいるのを発見
- 爪切りの際に利用者から「痛い」と訴えあり
- 個浴に向かう途中でふらつくが自力でバランスを保持する
- シャワーチェアから車椅子への移乗時に尻もち
- 入浴用のストレッチャーが浴槽のレールにしっかりとはまっていなかった
- 起床介助時に義歯がないことに気がつく
- 家族の方から洋服の紛失の訴えあり
- スタッフが利用者に「汚いな〜」と言っているのをみかける
- 男性利用者が女性利用者の胸を触っていた
移乗介助時のヒヤリハット
ヒヤリハットその1:移乗介助時に手すりに接触して手に擦り傷を負ってしまう
- 原因:移乗時に手と手すりの位置を確認せずに行ったために擦れてしまった
- 対策:移乗の際は手すりを外して、周りをしっかりと確認して行う
ヒヤリハットその2:介護士が近くにいない時にご利用者が車椅子から立ち上がろうとして転落しそうになる
- 原因:転落注意者として見守りが必要であったが、雑務のためスタッフが席を外していた為
- 対策:スタッフが席を外す前に、あらかじめ安全なソファーやベッドに移乗する
怪我につながるヒヤリハット
ヒヤリハットその3:施設内で仰向けになっているご利用者が発見される
- 原因:椅子の横に仰向けになっていることから、立ち上がり時にバランスを崩して転倒したと思われる
- 対策:椅子や利用者のバッグ等に鈴をつけて、動いたときにスタッフが気づきやすいようにする
ヒヤリハットその4:ベッド脇に座り込んだ状態でいるのを発見される
- 原因:本人申告によると、車いすからベッドへの移乗の際にフットレストに足が当たりバランスを崩したとのこと
- 対策:今後移乗する際は、スタッフを呼んで頂き見守り介助を行う
ヒヤリハットその5:寝返りをした際にベッド脇に転落しそうになる
- 原因:ベッドに柵がない為
- 対策:ベッドに柵を設置し転落を予防する。ベッドを止めて布団にする
ヒヤリハットその6:ご利用者の両手首付近に内出血を発見する
- 原因:ソファーから立ち上がりの際に、手首を掴んで介助したと考えられる
- 対策:立ち上がりの際には、腰に手を回しバランスを取りながら介助する
ヒヤリハットその7:体位交換時に壁におでこが当たりそうになる
- 原因:頭部と壁との距離が近いにも関わらず体位交換をしてしまった為
- 対策:体位交換の際は周りの安全を確かめてから行う
ヒヤリハットその8:ひげ剃り介助中にカミソリで切り傷を負ってしまった
- 原因:介助中に動かれてしまい、剃刀が横にそれて傷になってしまった
- 対策:ひげ剃り介助中は手を添えて顔が動かないようにして行う
食事・嚥下介助の際のヒヤリハット
ヒヤリハットその9:吸い飲みで水分を補給する時にむせかえってしまった
- 原因:水分に含ませる「とろみ」の加減や、姿勢が適切なものではなかった為
- 対策:現在の嚥下能力を再度検証し、飲食物に適度なとろみをつけ、無理のない姿勢で召し上がってもらう
ヒヤリハットその10:熱いお茶がこぼれ、太ももにかかってしまった
- 原因:暖かいお茶を出す際に注意を促すことが不十分であった。また、給茶器の温度設定が高温すぎたことも原因
- 対策:配茶の際に十分な注意を促し、また倒れにくいコップを使用するなど備品にも配慮する。給茶器の温度設定も変更する
ヒヤリハットその11:食事中に苦しそうな表情になる
- 原因:高いテーブルに誘導してしまい不適切な姿勢で食事を食べたため。また、食事形態が適切だったのかどうか
- 対策:低いテーブルに誘導することをスタッフ間で周知及び徹底する。また、食事形態変更の検討をする
ヒヤリハットその12:隣の席の薬入りのお粥を食べてしまう
- 原因:食事介助中、他利用者の介助のために職員が少し席を離れた間に、ご利用者が隣席のお粥のお椀に口をつけてしまった
- 対策:食事介助時に席から離れる時は、ご利用者の手の届かない位置にお盆を置く。薬は食事に混ぜ入れない
ヒヤリハットその13:本来はミキサー食なのにキザミ食が準備されていた
- 原因:厨房職員の確認ミス
- 対策:(間違っているときに気づくよう)入居者の食事形態を把握する
ヒヤリハットその14:食事介助中に口内に火傷させてしまう
- 原因:食事を提供する際に料理の温度を確認しなかった為
- 対策:食事介助の際は必ず温度を適温に冷ましてから行う
食前・食後のヒヤリハット
ヒヤリハットその15:食事後、口腔ケアをしていると血が出てきた
- 原因:口内を確認せずに口腔ケアをし、歯ブラシの先端が歯茎に接触した為
- 対策:口腔ケアをするときは、口内をしっかりと視認して行う
ヒヤリハットその16:朝食前の薬の服薬介助を忘れてしまう
- 原因:週1回の薬なので忘れていた為。他の利用者の対応をしていた為
- 対策:申し送りの際に薬のことをしっかりと伝達する
ヒヤリハットその17:夕食後の薬と朝食後の薬を間違ってしまう
- 原因:薬箱の確認と、服薬直前の薬袋の確認をしっかりと行わなかったため
- 対策:薬箱の表示(夕食後、朝食後)及び服薬直前に薬袋、利用者を確認して服薬する
ヒヤリハットその18:掃除中に床に落ちている薬(錠剤)を発見する
- 原因:服薬介助、または自力で服薬する利用者の口からこぼれ落ちたのに気づかなかったと思われる
- 対策:服薬介助するときは飲み込むまで確認する。自力で服薬する方の場合も同様に確認する
ヒヤリハットその19:2人ぶんの薬を同時に持ち、間違える
- 原因:服薬前に再確認せずにAさんの口に薬を入れたところ、それはBさんの薬であったためすぐに吐き出してもらう
- 対策:服薬前には必ず本人の薬であるかを確認する。同時に2人分の薬を持って服薬介助は行わない
ヒヤリハットその20:おやつ(ゼリー)介助時に誤嚥される
- 原因:一回に飲み込めるゼリーの量ではなかったため。また介助するタイミングが不適切だったため
- 対策:適切なゼリーの大きさで提供する。利用者のペースで介助する
ヒヤリハットその21:家族の方と大福を食べているのを発見する
- 原因:訪問時に差し入れなどがあるか確認しなかった為
- 対策:家族の方が訪問された際は、差し入れの有無、種類、量を確認して必要に応じてお断りさせていただく
ヒヤリハットその22:ティッシュを口に含んでいるのを発見
- 原因:以前にも異食があったのに、手の届く範囲にティッシュを置いてしまったため
- 対策:スタッフ間で、異食の可能性があるものを置き忘れないように徹底する
衛生面・入浴に関するヒヤリハット
ヒヤリハットその23:爪切りの際に利用者から「痛い」と訴えあり
- 原因:爪切りの先端が皮膚に当たり、痛みの訴えが発生した
- 対策:爪切りの際は、傷を作ってしまう危険性があることを再認識して、しっかりと確認しながら行う
ヒヤリハットその24:個浴に向かう途中でふらつくが自力でバランスを保持する
- 原因:シルバーカーの使用を促さなかった為にふらつきが発生した
- 対策:歩行する時には必ずシルバーカーの使用を促す。スタッフ間に周知する
ヒヤリハットその25:シャワーチェアから車椅子への移乗時に尻もち
- 原因:片麻痺があり、イライラしがちで待てないご利用者の動きに対して、車椅子の準備が間に合わなかった為
- 対策:入浴後の移乗は必ず二人体制で行う。動作がしやすいよう事前に環境を整えておく
ヒヤリハットその26:入浴用のストレッチャーが浴槽のレールにしっかりとはまっていなかった
- 原因:レールの位置をちゃんと確認せずに移動したため
- 対策:レールの位置を把握、確認して適切な使用方法で介助を行う
紛失に関するヒヤリハット
ヒヤリハットその27:起床介助時に義歯がないことに気がつく
- 原因:夜間帯に居室のどこかに置いてしまった可能性が考えられる
- 対策:夜間帯は入れ歯ケースをリビングの棚などに保管する
ヒヤリハットその28:家族の方から洋服の紛失の訴えあり
- 原因:洗濯時に他利用者のものと混同してしまった、またはスタッフが自己判断で捨ててしまったなどの為
- 対策:私物には名前を必ず記入する。処分するときには本人、家族へ確認を行う
ハラスメントに関するヒヤリハット
ヒヤリハットその29:スタッフが利用者に「汚いな〜」と言っているのをみかける
- 原因:誰もいないと思って暴言を吐いたと思われる
- 対策:ミーティングなどで職員教育を徹底する
ヒヤリハットその30:男性利用者が女性利用者の胸を触っていた
- 原因:A氏とB氏を隣同士の席に誘導してしまった為。リビングへの気配り等の配慮が欠けていたため
- 対策:隣同士の席にならないよう誘導する。他の利用者を介助している時でも全体に気を配り業務を行う
よくある質問
ここでは、介護職のヒヤリハットについてよくある質問を紹介します。
ヒヤリハットの報告書は本当に必要ですか?
介護職のヒヤリハット報告書は、介護の現場で起こったヒヤリとするケースを記録として残す書類のことです。
ほかの職員が読んだときにどのような事故が起こるかを把握でき、事前の対策を立てることで安全性を高めることが可能なので重要性が高い傾向があります。
ヒヤリハット報告書がどのようなものか、こちらの「ヒヤリハット報告書とは?」もあわせてご覧ください。
実際にどのようなことが起こっていますか?
現場によって内容が変わりますが、怪我につながりそうなことや食事のときのこと、衛生面、ハラスメント関連などその事例はさまざまです。
この記事でも一例をあげているので、こちらの「起こりやすいヒヤリハット事例30選」を参考にしてください。
まとめ
介護事故を防ぐためには、「ヒヤリハット」を共有することが必要です。
ヒヤリハットの記録をもとに、どうすれば事故に繋がらないか考え、話し合う場を設けましょう。
「結果的に何事もなくて良かった」では、いつか取り返しのつかない重大事故を起こしてしまうかもしれません。
ちょっとしたことでも必ず報告して「それが起こった要因は何か?」を考え、 実際の行動に反映させて事故防止に努めましょう。
ヒヤリハットの報告書について話をしてきましたが、ヒヤリハットを見ることでどのような事故が起こりそうだったりミスが多かったりしているかがわかります。今の職場でそういった事例が多い場合は、転職を検討することもおすすめです。
ウィルオブ介護では、経験をもとにどのような職場で働きたいかを相談してもらうことで、希望に近い求人を紹介しています。仕事中の不安や悩みなどの相談も受け付けているので、転職を検討している方はぜひ一度お問い合わせください。