目次
(1)ICFとはそもそもなにか
ICF(国際生活機能分類)とはWHO(世界保健機構)が2001年に提案した考え方です。
それまでは、社会的不利(生活のし辛さ)の原因は病気やそれに関連する症状であり、その病気や症状などを治療して、出来ないことを出来るようにするのが基本的なケアの考え方として推奨されていました。
しかし、ICFの考え方では社会的不利は病気やそれに関連する症状ばかりが原因ではなく、本人を取り巻く環境などもその原因だと考えました。
その考え方を取り入れたことで、今まで病気や症状が治らなければどうにもならなかった社会的不利に対して、他の様々な方向から対処できるようになったのです。
以下の図はICFの考え方を図にした物です。その人を取り巻く全てがそれぞれ干渉しあってその人の生活環境を作り出しますので、たとえ病気などが改善に向かわなくても、環境など、その他の部分で補完すれば、その人が望む生活を作り出すことができるということを表しています。
ICFの考え方を用いてケアプラン作成を行う場合は、上の図にある全ての項目について課題分析を行いながらケアの目的や目標、具体的行動まで併せて考えていきます。
そしてケアプランの書類を作成する際には、課題分析を行った時に挙がった目標や具体的行動を整理して当てはめていきましょう。では実際にICFの考え方を用いた課題分析の事例を紹介します!
介護職の離職の原因として心身の不調が挙がっています。利用者だけでなく、介護する側のケアも必要となるでしょう。
(2)ケーススタディ ICF課題分析でケアプランを作成する
利用者像
Aさん、72歳・男性
脳梗塞・右半身麻痺・運動性失語
高校卒業後から陸上自衛隊に所属、55歳で定年後、知り合いが経営する司法書士事務所を手伝っていたが69歳の時仕事中に倒れ、脳梗塞と診断。右半身麻痺と運動性失語を認める。
妻は40歳の時に亡くしており、身寄りは県外に住む長男夫婦のみ。
本人は住み慣れた地元である福岡で暮らす事を希望していたが、一人暮らしを心配する長男の強い希望で息子が暮らす東京の老人保健施設へ入所。現在に至る。
長男もできれば住み慣れた地での生活をさせてあげたいとは思っているが、車椅子での生活などの事を考えると難しいとも思っている。
健康状態
ここでは対象者の疾患や既往から、医師や看護師に現状を踏まえた上で治療方針などを示してもらうことになります。
一度脳梗塞を起こした場合、その原因として動脈硬化が起きていたり、その他の脳梗塞を引き起こしやすい健康状態にあった可能性がある。再発防止に努められるように、定期的な診察と薬の処方、医師による生活面のアドバイスが必要。
参加
社会的活動など様々な人と関わりを持ち、そこで役割を見出せる活動がこの「参加」にあたります。
Aさんの場合は本人の希望として住み慣れた地元で過ごしたいと考えていますが、実現できていない状況です。少し見方を変えると「住み慣れた地の方が様々な人の協力などを得やすく、地域のネットワークにも参加しやすい」と考えられますので、地元に住めないというのは「参加」が制限されているということを指します。
今回はこの参加の項目に本人の望みが強く現れていますので、これが最終的に目指すべき「目的」となります。
ICFモデルをケアプラン作成に用いる際は、ここで目的に繋がる目標を設定しておきましょう。
本人は知り合いの多い住み慣れた地で一人暮らしを望んでいる。実現することで地域のネットワークにも参加しやすくなり、先々Aさんらしい生活を送るための足がかりにもなりやすい。
そこで実現に向けて以下の項目を実現する必要があります。
- 子供の理解を得るために一人で生活を送るためのサービス環境を整える
- 一人で生活できる身体機能を手に入れる
- 一人で生活できる住環境を整える
- 一人で生活するためのコミュニケーション手法を手に入れる
活動
「参加」の項目で明確になった目標に対して、下記のように分類分けをします。
- 現在日常的に行っている活動(している活動)
- 日常的には行っていないものの訓練などの場であればできる活動(できる活動)
- 目標を達成するために将来的に「している活動」となる活動(する活動)
今、何がどこまで出来るのかを明確にし、次のステップとしてどこまで出来れば良いのか、そして最終的にどこまで物事を出来るようになれば、自分らしい生活が手に入るのか、という事を明確にします。
一人で生活できる身体機能を手に入れるという目標に対しては、下記の例のように記します。
- している活動:車椅子での移動
- できる活動:装具と杖を使用しての歩行
- する活動:装具を使用してのトイレ、洗面
一人で生活するためのコミュニケーション手法を手に入れるという目標に対して下記の例のように記します。
- している活動:指差しでの意思表示、Yes・Noでの意思表示
- できる活動:絵カードを使用した意思表示
- する活動:聞きたい事を相手に尋ねる
心身機能・身体構造
現在体に現れている症状に対して「活動」の項目で出来ていることを参考にしながらどのようなケアの方針をとるか考えていきます。
右半身麻痺に対して
右半身麻痺の程度は訓練により軽減される。しかし現在訓練にて装具を使用すれば左半身の力だけでも歩行可能である事から、積極的機能回復よりも尖足など歩行を阻害する状態を未然に防ぐため可動域の拡大に重点を置いた対処が必要です。
失語症に対して
失語症の程度は訓練により軽減される。現状は、質問や声かけに対する理解は良好、2択での意思表示、物を指差すなどによる意思表示は良好であるため予後はリハビリやツールの活用で 健常者とも難なく意思疎通が可能となる事が予測されます。
環境因子
「参加」の項目で明確になった目標に対して現在の対象者を取り巻く環境や人、利用可能なサービスなどにフォーカスしながら、どうすれば目標達成へと近づけるか考察していきます。
子供の理解と地域密着型の介護サービスなどの環境整備を整える
一人暮らしを実現するためには家族の理解も必要になります。家族が同じ県内に呼び寄せた理由が「一人暮らしでは何かあった時に心配」「そもそも一人暮らしなんてできるレベルでは無い」という理由です。
しかし、できれば親がすみ慣れた地で過ごさせてあげたいという想いはあることから、安全面と生活上での不自由が無いように配慮した環境整備と、訪問介護などのサービス利用を行えば十分に納得してもらえる可能性は高いでしょう。
一人で生活できる住環境を整える
一人で生活していくために、手すりなどの設置が可能か、エレベーターなどの環境が整っているか、もしくは整えることができる物件探しが必要です。また、福祉用具も重量はあるもののより安定性が高い両側支柱付装具やウォーカーケインなどの使用を検討しましょう。
個人因子
その人の性格や生活歴も時としてケアプラン通りに事が運ぶかどうかを左右します。そのような部分がその人らしい人生を形作る際にプラスに左右しそうなものを探してみましょう。
長年過ごした地での生活を強く希望しており、本人はそれが出来ると信じています。頑固な一面があり、長男が住む東京に移ることを話した時にもなかなか首を縦に振らなかったと言っていますが、その頑固さや意志の強さはケアプラン通りに行動を起こせる一助になる可能性が高いでしょう。
(3)ICFの原理原則から考える
ICFによる課題分析からケアプラン作成へと繋げていく手順は人によって若干違いがあります。
今回は「参加」の項目において目的と目標の設定を行い、そこで明確になった目標を「活動」と「環境因子」に振り分けて更に課題分析と方向性を決めましたが、それとは違う手順でICFを活用してケアプラン作成を行う人もいます。
しかしICFを活用してケアプランを作成する場合、実は細かい手順はそこまで重要ではありません。ICFの中で最も大事なのはその考え方です。
病気だからできなくなると考えるのではなく、病気でもできることがあると認識すること、そしてただ闇雲に出来ることを伸ばしたり環境を整えるのではなく、明確な目的のために出来ることを伸ばして環境を整えていくという考え方です。
その考え方に沿って、本人らしい生活を送るためには現状からどのような手順を踏めばいいかを考えていくと、スムーズに、そして的外れな方向へ向かうことなくケアプランの作成ができることでしょう。
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