(1)排泄介助とは

介護の基本となる排泄介助

高齢になると、足腰の筋力がおとろえて一人ではトイレへ行けなくなったり、便座に腰かけることができなくなったりします。また、骨盤底や膀胱の機能低下で失禁しやすくなるなど、排泄機能に障害も見られるようになります。

そのような人の排泄行為をサポートすることを、排泄介助といいます。排泄行為はほぼ毎日あることなので介護を始める方はまずこの”排泄介助”を身につける必要があります。

具体的には、トイレまでの同行、衣服の着脱、車椅子からの移乗などの手伝いや排泄の見守りや声かけ。そして、排泄後の清拭や洗浄などが排泄介助として挙げられます。

また、寝たきりなどでトイレまで移動できないような場合には、ポータブルトイレや尿器、大人おむつなどを使用した排泄介助も行います。

(2)排泄介助の種類

排泄介助は、用具などによって以下のような種類に分けられます。

トイレ

高齢者は足腰がおとろえているため、和式トイレの使用は難しくなります。自宅のトイレが和式の場合は、洋式タイプの簡易便座を取り付けましょう。

また、手すりを取り付けることで移乗を楽にしたり、転倒をふせいだりすることができます。ヒートショック防止のために、温熱便座や温水洗浄の設置もおすすめです。

ポータブルトイレ

ポータブルトイレは、寝室などに持ち運び使用できるトイレです。便器と排泄物を入れるバケツの組み合わせが基本となっています。ポータブルトイレはレジャー用や災害用のものもあるので、四足で手すりの付いた介護用を選ぶようにしましょう。

尿器

しびんなどの尿器は、ベッドの上で寝転がったまま排泄介助を行うことができます。尿器は男性用と女性用で形状や使い方が異なります。

排便に用いる便器には、腰を上げずに仰向けのまま使用できる小型差し込み型や、広い面積で容量の大きいベッドパン型、空気でふくらませるやわらかいゴム型などの種類があります。

大人おむつ

大人おむつは、尿もれや失禁などの排泄介助に用います。手軽な紙おむつには、自力ではくことができるパンツタイプと、寝たきりに適したテープタイプのものがあります。

布タイプの場合は、洗浄して繰り返し使用することもできます。アウターのおむつカバーやインナーの吸水パッドなどと併用すると、ゴミやコストを軽減することができます。

(3)排泄方法の選び方

どこまで一人でできるかによって、取るべき排泄介助は異なってきます。できるだけ自力で行うことを基本として、もっとも適切な方法を選びましょう。以下では状態別に排泄方法を説明していきます。

トイレまで行くことができる

ある程度歩くことができる場合は、手引きや寄り添いで、通常のトイレまで行ってもらうようにしましょう。自力で排泄することは、生活意欲や自信を高め、筋力トレーニングの一貫にもなります。

ベッドから起き上がることができる

トイレまで遠かったり、歩くことが難しい場合には、ポータブルトイレを使用します。寝室や近くの部屋などに置いて、すみやかに排泄を行えるようにしましょう。また、移動に危険をともなう夜間だけ排泄介助として使用する場合もあります。

ベッドから動くことができない

ベッドの上で排泄を行うときには、尿器などを用いて排泄介助を行います。この場合も、姿勢を変えたり、尿器を持ったり、できることは自力で行ってもらい、自尊心に配慮することを忘れないようにしましょう。

寝たきり

寝たきりや認知症が進むと、尿意や便意を感じなくなり、尿もれや失禁といった排泄障害を起こすようになります。このようなやむをえない場合にのみ、大人おむつを用いた排泄介助を行います。

(4)排泄介助の手順 トイレの場合

①トイレへ移動する

転倒がないように、障害物や歩行のペースに気をつけながら歩行介助や見守りをします。

②下着を下ろす

一人でズポンやパンツを下ろせない場合は手伝います。手すりがある場所では、つかまりながら行うようにしましょう。

③便座へ腰を下ろす

便座への移動をサポートするときは、両足の間に自分の片足を入れ、前方から腰をかかえて行います。座ったあとも、足がしっかり床についているか確認しましょう。

④排泄する

排泄が終わるまで、トイレの外で待機します。異変があったらすぐ動けるよう、鍵はかけずに、ドアも少し開けておきましょう。あまり長くかかるようであれば、確認の声かけをしてください。

ただし、焦らせることは絶対に禁物です。転倒するおそれがある場合は、便器の横で待機してください。そのさいも、物音を立てないなど、リラックスできる環境に配慮します。

⑤汚れを拭き取る

一人でお尻を拭くことができない場合は、排泄介助を行います。腰を浮かせ、前から後ろに向けて拭き取ってください。このとき、さり気なく排泄物をチェックして健康状態にも気をつけましょう。

⑥便座から立ち上がる

ズポンやパンツを上げる手伝いをして、座るときと同じ要領で便座から立ち上がるのをサポートします。血圧が高い人などは、めまいにも気をつけましょう。

いずれの場面でも、なるべく自力で行ってもらい、排泄介助は最低限におさえるのがポイントです。プライバシーに配慮して、できるだけ手短にスムーズに行うよう心がけましょう。うまくできたときは、いっしょによろこび、ポジティブな気持ちになってもらうことも大切です。 

(5)排泄介助の手順 ポータブルトイレの場合

①トイレへ移動する

ベッドからポータブルトイレまでの移動を手伝います。体を起こす、立ち上がるなど、うまくできないことはサポートしましょう。

②便座に腰を下ろす

ポータブルトイレのフタを開け、ズボンとパンツを下ろします。移乗のさいは、正面から腰を支え、転倒しないように注意してください。腰を下ろしたら、足がしっかり床についているか確認しましょう。通常のトイレと異なりプライバシーが守られないので、タオルをかけるなどの配慮も必要です。

③排泄する

排泄の間は近くで待機します。済んだら知らせてもらい、拭き取りや下着の着衣など、自力でできない部分の排泄介助を行います。

④ベッドに戻る

立ち上がるさいも、便座への移乗と同じ要領で行います。血圧が高い場合などはめまいに注意してください。ベッドに戻ったら、本人への声かけや体調確認も忘れないように行いましょう。

⑤後片付け

バケツをトイレまで持っていき、排泄物を流します。このとき、健康状態のチェックも忘れずに行ってください。バケツの汚れはトイレットペーパーなどで拭き取ったうえで、洗い落とします。

ポータブルトイレを使用する場合でも、基本的にできることはすべて自力で行ってもらうことに変わりはありません。また、寝室で使用する場合は臭いが残りやすいので、すみやかに後片付けしましょう。

(6)排泄介助の手順 尿器の場合

①尿器を当てる

排尿は、尿器の受け口を陰部に当てて行います。男性は横向きになっても使用できます。女性は仰向けで、尻の下にトイレットペーパーなどを敷きましょう。排便の場合は、便器を尻の下に入れて排泄介助を行います。

②排泄する

排泄が済むまでそばで待ちます。排便の場合は、上体を起こすことでよりスムーズに行えるようになります。介護ベッドのリクライニング機能や、背中に枕やクッションを入れるなどの工夫をしてあげましょう。排泄が済んだら、清拭を行い衣服を元に戻します。

③後片付け

排泄物をトイレで流し、尿器や便器を洗います。このとき、排泄物の状態から健康チェックも忘れずに行いましょう。

尿器を使用する排泄介助でも、自分で尿器を持つ、ズボンの上げ下げをするなど、できることは自力でしてもらうようにしましょう。

(7)排泄介助の手順 大人おむつの場合

①おむつ交換の準備

まず、排泄介助を行いやすい高さにベッドを調節します。何度か体位を変えることになるので、やりやすいように腕を胸の前で組んでもらいます。

②汚れを拭き取る

おむつを外したら、仰向けのまま陰部の汚れを拭き取ってください。お湯で洗い落とすさいには、汚れが尿路に入ると感染症を起こすので、上から下へ流すようにします。次に、横向きにして同じように洗浄します。このとき、褥瘡など皮膚の状態もチェックしておきましょう。

③おむつを交換する

おむつが汚れていなければ、尿パッドのみの交換でかまいません。汚れている場合は、横向きのまま古いおむつを丸めて体の下に来るようにします。新しいおむつをお尻に当てたら、反対側に横向きになり、古いおむつを取り出します。

最後に、仰向けに戻っておむつの形をととのえます。テープを止めるときは、ゆるすぎずきつすぎず、腰に指が一本入るぐらいの余裕を持たせてください。

④後片付け

衣類を元にもどしたら、寝具をかけて元の寝ていた状態に戻します。古いおむつは新聞紙やビニールにつつんで捨てましょう。

やむをえないといはいえ、大人にとって「おむつ」は心理的に抵抗があるものです。排泄介助を行うさいにも、なるべく言葉にしないよう配慮しましょう。

(8)排泄介助のポイント

排泄介助を行うさいには、以下のようなポイントに気をつけましょう。

自尊心に配慮する

排泄はとてもプライベートな行為です。排泄中はカーテンやタオルで隠し、作業もすみやかに行うなど、十分な配慮をするようにしましょう。また、介助の際に嫌そうな表情や態度を見せると、排泄行為そのものに抵抗を感じるようになってしまいます。

楽しい会話やうまくできたよろこびなど、ポジティブな声がけを心がけましょう。急かしたり、叱ったりするのは厳禁です。声掛けの際の声の大きさにも配慮しましょう。排泄物のチェックも、できるだけさりげなく行ってください。

できることは自力でする

排泄介助では、できることはすべて自分で行ってもらうことが原則です。そのために、手すりやブザー、暖房など、バリアフリーの設置についても考えておきましょう。

おむつの使用は介護する側にとっても楽ですが、自尊心を傷つける、かぶれる、便意を感じにくくなる、筋力が低下する、といったさまざまなデメリットもあることに注意しましょう。

生活リズムをととのえる

排泄は毎日決まったタイミングで行うと、失禁などの失敗をふせぎやすくなります。食後や外出前など、習慣づけておくとよいでしょう。

朝食をしっかり取ることはスムーズな排便につながり、寝る前に排泄を済ませることで失禁が減る、といった傾向も見られます。また、そわそわしはじめるなど、その人なりの排泄のタイミングを把握しておくことも大切です。

水分はしっかり摂取する

排泄介助を受けていると、なるべく排尿を減らそうとして水分摂取を避けるようになることがあります。

しかし、高齢者はもともと脱水症状や便秘になりやすく、それが原因で脳梗塞を引き起こすことさえあります。このような点を十分に説明して、気にせず、しっかり水分摂取をしてもらうようにしましょう。

介護士として働いていた方から聞きました!排泄介助のコツ・気を付けていること

現場で介護士として働いていた経験があり、現在は公認心理師・社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士・保育士の資格を持ち、福祉事業所を経営されている小山けんいちさんから排泄介助の際のコツや気をつけることを伺いました。

声掛けをこまめにする

どのようなタイミングでどんなことをするのか、細かく声をかけて利用者さんに安心してもらえるようにします。

また、利用者さんに合わせて会話の量も調節します。お話をするのが好きな方もいればそうでない方もいます。利用者さんに合わせて会話の仕方も変えています。丁寧にコミュニケーションをとりながら行うことが大切です。

周りへの配慮

声掛けはもちろん重要ですが、必要以上に大きな声で声掛けをしないように注意が必要です。声のボリュームに気をつけましょう。利用者ご本人に配慮することが排泄介助では特に大切になります。

とにかくイメージトレーニング

慣れないうちは排泄介助を難しいと感じるかもしれません。とにかくイメージトレーニングをすることがコツになります。自分の中で手順を確認して何度もイメージしてみましょう。

(9)排泄最優先の原則とは

介護の現場では、「尿意や便意を感じたときには最優先で排泄を行うべきだ」という考えが浸透しています。

これは、食事や入浴などとは異なり、排泄は自分でコントロールすることができない生理現象だからです。また、排泄の失敗は本人に精神的なダメージをあたえ、生活そのものに対する意欲をうばうきっかけともなってしまうからです。

ほかにも、徘徊や暴力、暴言、不眠、せん妄といった認知症の問題行動は、じつは便秘に原因があるケースが多いとも考えられています。

そのため、介護する側は忙しさを理由に排泄介助を断ったり、後回しにすることは避けるようにするべきとういのがこの「排泄最優先の原則」です。

適切な排泄介助は、生活全般を支える土台になるということをよく知っておきましょう。

(10)高齢者の尊厳を傷つけない排泄介助のために

排泄は毎日の生活を送るうえで、誰にとっても欠かせない行為です。それをケアすることは、ある意味で食事や入浴の介助よりも大切だといえるでしょう。

一方で、排泄はとてもプライベートな行為です。デリケートにあつかわなければ、介助そのものに抵抗感をあたえ、生活に対する意欲をうばってしまうことにもなりかねません。

高齢者の尊厳を守るには、自分自身が排泄介助を受ける立場になって考えてみることが必要です。そのうえで限界を感じるときには、おたがいのためにも介護サービスや施設の利用も考えてみましょう。

協力

 

小山けんいち| 福祉事業所Withket

「誰にもできないことをやる!」をモットーに、Withketにて、居宅介護・重訪・相談支援・放デイ事業を展開。公認心理師・社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士・保育士の5つの資格を持つ。

小山けんいちさんのTwitter
小山けんいちさんのブログ

【福祉事務所Withket】

千葉県柏市にある福祉事務所。令和1年に設立。

居宅介助・移動支援 「ここら」
特定相談・障害児相談支援 「音の音」
放課後等デイサービス 「Hi-Nique!」
といった福祉事業を幅広く展開している。

Withketの名前は、「一緒」という英単語の「With」に、「ビスケット」と「ブランケット」の語感をプラスしたオリジナルのもの。

WithketのHP
WithketのTwitter


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