(1)町長を目指した理由。それに対する主な取り組みとは

―なぜ町長を志されたのですか?

一言では語り尽くせませんが、大きな理由としては「少子高齢化」「大規模災害の増加」「経済の乱高下」などが起こり、時代の転換期とも言われている今、自分の出身地である大子町を希望ある未来への町にしていきたいと思ったからです。

高齢者の方に希望ある毎日を送ってもらうためには、まずは安心した毎日を過ごせるようにすること。そして、若い世代が対価を得られ、達成感を感じられる充実した仕事ができるようにしていきたい。それが一番身近な、希望ある毎日への町づくりになるはずです。

そして、町が取り組まなければならない課題の一番目として、高齢化が進み若者が減っていく町の現状を打開し、大子町の閉塞感を払拭していかなければならないと思っています。

―閉塞感を払拭するためにどんな取り組みをしていますか?

未来の大子町を担ってくれる子どもたちに対して、先進的な教育を進めています。コロナ禍になる以前から大子町では、小・中学校の児童生徒一人ひとりにタブレット端末、そしてネット環境がない家庭にはWi-Fiの接続機器を無償貸与しています。今の子どもたちにはデジタル教育は必須であり、充足した教育を受けたか受けないかで社会に出た時に大きな差がついてしまいます。

それに、デジタル教育の実践はもちろん、語学やドリル学習についてもPC環境があれば、どこにいても先進的な教育を受けることができます。将来に向けてのグローバルな人材育成につなげるためにも、町長として着任すぐからデジタル教育を推進しています。

現在、新型コロナウイルス感染症の流行で子どもたちのリモート学習が必要とされていますが、大子町の子どもたちは以前からデジタル学習には慣れ親しんでいますから、自宅でリモート学習を行うことに関して何の問題も起きていません。

大子町のデジタル教育については、県内でもトップクラスだと自負しています。未来の世界人である子どもたちには、現在外国語を使わなければならない施設へ校外学習に行っていますが、将来は修学旅行等で海外に行かせたいと思っています。

―教育の他に介護現場にもDX導入を進めているとのことですが、一番の目的は何ですか?

介護士さんが利用者さんに向き合える時間を増やすことです。介護の職場には、さまざまな役割の方がいらっしゃいますけれども、やはり一番サービスを充填して注力していかなければならないのは利用者さんと接する時間だと思っています。

そのためには、ITをどんどん投入していく必要性を感じています。IT、ICTが導入されれば事務的作業の効率化が図れます。時間に余裕が生まれれば、介護士さんたちたちも新しいことにチャレンジできる環境になり、モチベーションも上がるのではないでしょうか。そういった好循環を生み出していくことも私たち行政の責務だと思っています。

ですので、職員の便利度向上、利用者の満足度向上につながるDX*¹導入については、介護DX最先端の町を目指すくらい、大子町としては果てしなく挑戦していくべきだと考えています。

*¹ DX…「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン (DX 推進ガイドライン) Ver. 1.0 | 経済産業省

(2)官民連携でさまざまな取り組みにチャレンジする大子町

―高齢化が進む大子町ならではの介護サービスや、町民の健康寿命を伸ばすための取り組みなどはしていますか?

2020年度から「企業のソリューション活用で健康福祉分野の地域課題を解決したい」自治体と、「自治体と連携したい」企業とのマッチングを図る、経済産業省関東経済産業局の「ガバメントピッチ」などを利用した2本の取り組みを行っています。

1本目は「IT介護支援アドバイザー事業」というもので、東京の社会福祉法人の方々と連携しながら、介護現場の問題点や今後の展望について進めています。

2本目は総務省の「地域活性化起業人制度」を利用したもので、東京のヘルスケアベンチャー企業と連携協定し、現行の24介護予防事業が適切に大子町にあてはまっているか検証しつつ、町民の健康寿命を伸ばす活動をしています。具体的には、「健幸TV」というベンチャー企業の動画配信サービスを利用し、町民の方々に健康体操やヨガなどを行ってもらい、健康に対する関心を深め、介護予防活動を促すものです。

官民連携でさまざまな取り組みに挑戦し、精査をして、そして幅を広げていくことが大子町のような高齢化率の高い町には大事なことではないでしょうか。官だけで結論を出さずに、官民が連携したことによるパワーアップを念頭において、行政の立場からその大切さを町民の方々に周知していこうと思っています。

また、保健師、介護支援専門員、管理栄養士などの専門職の募集は年に1回、採用は4月と限定している自治体が多いのですが、大子町では随時募集という形に2021年度より切り替えました。キャリアのある方ならいつからでも働いてもらえるように、採用システムについて改善を始めています。

―大子町の介護サービス利用率15%をどうとらえていますか?

低いですね。しかし数字には表れない潜在的な介護の必要性があると思っています。在宅、訪問介護は薄くて、施設に入所している人が多いことが大子町の特徴です。訪問介護が不足しているということで、2021年度から大子町社会福祉協議会で訪問介護事業所を新たに開所しました。ですので、この15%という数字は近い将来には上がると分析しています。

―大子町の地域医療については?

地域医療に貢献する医師を顕賞する第9回「日本医師会 赤ひげ大賞」*²を受賞した慈泉堂病院の鈴木先生など、水郡医師会会長を務めていらっしゃる保内郷メディカルクリニックの櫻山先生をはじめとした、多くの素晴らしい先生方が大子町にはいらっしゃいます。

先生方の長年のご尽力のたまもので、大子町の医療機関のチーム力は素晴らしいものがあり、茨城県における新型コロナウイルス感染症のワクチン摂取率は大子町はトップ3に入っています。これは準備期間から医師の先生方が月に1回集まって、接種の仕方や機材の確認などを行い、スムーズな接種システムが作られていたからこそだと感じています。先生方の連携のおかげで、大子町では24時間365日救急患者を受け入れる体制も継続できています。

ただし現在は、分娩ができる産科の病院が大子町にはありません。いずれは産科の先生に来ていただきたいとは考えておりますが、それまでは妊婦の方が遠くの病院まで通院される交通費の補助や緊急車両がスムーズに移動できるための道路整備など、行政としてできる限りのサポートを行っていきます。

*²赤ひげ大賞…「地域に密着して人々の健康を支えている医師の功績を顕賞し、広く国民に伝えるとともに、次代の日本を支える地域医療の大切さをアピールする事業として平成24年に創設された。」

赤ひげ大賞|日本医師会

(3)四季折々の景色と美味しい特産品。魅力満点の大子町

―大子町のよさをどんな時に感じますか?

四季折々の景色に感じます。真夏は40度、真冬はマイナス8度まで、気温差のある大子町だからこそ、リンゴ栽培の南限、お茶栽培の北限として、四季を感じる作物がとれ、奥久慈りんごをはじめ、奥久慈茶、良質な米、しゃも、こんにゃくなどが地場産業に貢献しています。私はサイクリングが趣味なんですが、自転車に乗って大子の風を感じると、なんともいえない幸せを感じますね(笑)。

大子町は温泉にも恵まれていますので、「星空観察キャンプ+温泉」「大子の山歩き+温泉」といった、アクティビティを取り入れた新しいスタイルの観光プランも考えています。山歩きのガイドやキャンプ場の清掃など、高齢者の方が働くことができて観光客の方から感謝される、やりがいのある仕事を提供することが、介護予防の面からも行政に期待されています。また、大子町でリハビリを受けた方が元気になって今度は町に貢献できることをしていく、そんな好循環を生みだしていきたいと思っています。

都市部に一極集中していた流れが、最近は地方に向いています。都市部から大子町に移ってきた方々を迎え、その人たちが活躍できる場をつくる。そこで文化の交流が生まれ、大子町のよさが受け継がれていきます。それをすすめる意味でも、さまざまな分野に多くの施策を打って、町民のみなさんの力をお貸しいただきたいと思っています。

(4)『福祉と経済が両立する町』を目指す大子町のこれから

―大子町をこれからどのようにしていきたいと考えていますか?

福祉と経済が両立しているのが理想的な町のかたちです。教育・福祉は国のつくった土台の上に各自治体が工夫して走らせるものですから、工夫すればするほどよいシステムになっていくはずです。一方、経済を担う人たち、働く世代をどうやって地域に増やしていくのか、これが大子町だけでなく全国どの自治体においても課題となっています。福祉と経済の融合ができてこそ、本当の素晴らしい町になりますので、それに向けて職員一丸となって日夜努力しています。

―20年後の大子町、どのようになっていると思いますか。

さまざまな機関が数値をとって統計的に予測していますが、それによれば人口や出生率、医療介護の供給量の低下などさまざまな分野で低下する数値が示され、自治体も都道府県や国と連携して少しずつグランドデザインの修正をしながら歩んでいくことになると思います。

物理的な数値を劇的に変えるのは難しいですが、どこかで下げ止まりをつくって、横ばいにしなければならないと思っています。予測された数値の通りのままの未来でしたら、私たち行政が存在する意味がありません。

大切なことは、その時代に頑張っている人たちが充実した毎日を過ごせるようにすることです。介護の分野でいえば、生き生きと介護に携わってくれる職員がいて、それに感謝し、健康の意識を高めながら毎日を過ごせるようにならなければいけません。

経済、教育、福祉、すべてにその時代に合ったものを取り入れ、充実した暮らしのために知恵を絞って工夫していくことが必要です。長期的なスタンスで取り組んでいかなければなりませんが、あきらめずに、町民のみなさんと力を合わせて、希望の明日をつくるためのマインドとモチベーションを持って、前を向いて頑張っていきたいと思っています。

高梨哲彦(たかなし・てつひこ)

1968年大子町生まれ。2019年より第17代大子町長

座右の銘:深い川は静かに流れる
趣味  :サイクリング、ゴルフ

インタビューを動画で公開中♪

茨城県大子町チャンネルで、今回のインタビューを公開しています。ぜひご覧ください。

ライター

林ぶんこ

約7年の愛媛・宇和島生活を終え、2021年より横浜に戻ってきたフリーライター。Webメディアや企業誌を中心に活動中。 

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