目次
(1)2021年度の介護報酬改定について
2021年度(令和3年度)介護報酬の大きな改定事項にはどんなものがあるのでしょうか。
厚生労働省は2021年3月16日に新年度の介護報酬改定の解釈通知を公表しました。
大きな軸は5つ
2021年度の介護報酬改正の大きな軸は、大きく5つあります。
- 感染や災害への対応力強化…感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制を構築
- 地域包括ケアシステムの推進…住み慣れた地域において、利用者の尊厳を保持しつつ、必要な サービスが切れ目なく提供されるよう取組を推進
- 自立支援・重度化防止の取り組みの推進…制度の目的に沿って、質の評価やデータ活用を行いながら、 科学的に効果が裏付けられた質の高いサービスの提供を推進
- 介護人材の確保・介護現場の革新…喫緊・重要な課題として、介護人材の確保・介護現場の革新に対応
- 制度の安定性・持続可能性の確保…必要なサービスは確保しつつ、適正化・重点化を図る
新型コロナウイルス感染拡大防止やICT化の推進などを踏まえた内容になっています。
(引用:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」)
介護のデータベースが改変
利用者の状態やサービスなどの情報を蓄積するデータベースが今年度から「LIFE」に改変されます。LIFEとは「Long-term care Information system For Evidence」の頭文字をとって名付けられました。
現在、「CHASE」や「VISIT」などと呼ばれている介護保険のデータベースが使用されていますが、その二つを統合する形で「LIFE」に変更になります。
本格的な運用に向けて、4月の介護報酬改定ではその活用をうながすインセンティブが、各サービスに創設されます。
(2)科学的介護情報システム「LIFE加算」とは
LIFEの活用開始に伴って、LIFEの活用が要件となっている介護報酬加算ができました。正式には、「科学的介護推進体制加算」と呼ばれます。
科学的介護とは、利用者のビックデータをもとに、サービスの改善や、サービスの成果の予測、利用者に合ったサービス提供を行うことです。データを根拠に、合理的かつより良いサービスを提供できるようになると考えられます。
介護事業主がLIFEに情報を提供すること、LIFEの情報を活用することでサービスの改善をはかることなどが加算の条件になります。
介護事業者が利用者のデータを提供する
加算をもらう条件の一つに、LIFEに介護事業者が利用者の情報を提供することがあります。加算の種類によって、利用者全員分のデータ入力が必要なのか、一部でよいのかなどは異なります。
具体的には、利用者のADL値や栄養状態、口腔機能・嚥下の状態、認知症の状態などの情報を提供します。パソコンから、入力するかたちで情報提供を行います。
ビッグデータを利用した科学的介護を目指す
そしてもう一つの条件が、LIFEに蓄積されている情報を活用することです。
データベースの情報をもとに、サービスの見直しやケアプランの作成、PDCAサイクルを回すことなどが加算が認められるために必要です。厚生労働省も「データ提出とフィードバックの活用による、PDCA サイクル・ケアの質の向上を図る取組を推進する」と通知しています。
PDCAサイクルとは
データを活用したPDCAサイクルとは、計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)のサイクルのことです。データをもとに支援計画やサービス計画を立てて実行をします。その後それに対しての評価をし、次の計画に向けて改善、活用します。
ICTの導入が求められる
LIFEの活用にはICT化の導入が求められます。利用者の情報の管理やデータベースの活用は、紙媒体ではなかなかスムーズにいきません。
厚生労働省は、「ICT導入支援補助金等適用(LIFE対応)開発ベンダ一覧」を公開しています。ICTの導入には補助金が出ます。介護現場では、まだまだICT化が進んでいません。今後は、LIFEの活用とともに、ICT化の推進が目指されます。
(3)LIFE加算の具体的な項目と算定要件
LIFEの活用による加算は主に以下のものになります。
施設系サービス | 通所系・居住系・多機能系サービス |
---|---|
科学的介護推進体制加算(i) 40単位/月(新設) |
科学的介護推進体制加算 40単位/月(新設) |
科学的介護推進体制加算(ii) 60単位/月(新設) |
※施設系以外は1区分のみ |
特養、地域特養の加算(ii)は50単位/月 |
科学的介護推進体制加算とは
科学的介護推推進加算は、LIFEの活用開始に伴い新設された加算です。特別養護老人ホームやグループホーム、通所介護、小規模多機能型居宅介護など多くのサービスが対象になります。
科学的介護推進体制加算の算定要件
科学的介護推進体制加算の算定要件は大きく2つあります。
一つ目は、すべての利用者の基本的な情報をLIFEに提供することです。具体的には、
- 既存の利用者については、加算の算定を始める月の翌月10日まで
- 新規の利用者については、サービスを始めた月の翌月10日まで
- 2回目以降の情報提供は、少なくとも6ヵ月ごとに翌月10日まで
- サービスを終了する利用者について、その月の翌月10日まで
と定められています。情報提供すべき期日にできない場合は、直ちに届け出が必要になります。この場合は、利用者全員について加算を算定できなくなってしまうため、注意が必要です。
(引用:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における 改定事項について (LIFE関係抜粋)」)
(4)LIFEの活用が要件として含まれる加算一覧
LIFEの活用は、科学的介護推進体制加算以外の加算にも要件に含まれるものがあります。
以下が一覧表になります。
(引用:厚生労働省「LIFEの活用等が要件として含まれる加算一覧(施設・サービス別)」)
LIFEに関する加算に限らず、介護報酬の見直しに伴って、加算の条件の変更が行われています。以下のリンクも参考に一度確認してみてください。
(参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における 改定事項について (LIFE関係抜粋)」)
(5)LIFE加算の申請方法
LIFE加算の申請はパソコンから行います。利用や登録は無料です。
申請方法及び利用方法の大きな流れは、
- 新規利用申請
- 厚生労働省から送付されるはがきの受領
- 初回ログイン・IDの設定
- 利用者情報・様式情報の登録
となります。
新規利用申請
既にCHASEまたはVISITを利用している場合、ID・パスワードは引き続き利用可能です。どちらとも利用している場合、CHASEのIDとパスワードに統一されます。
LIFEの利用申請は厚生労働省のLIFE登録ページから行います。画面に表示される説明に合わせて、必要な情報を入力します。
はがきの受領
申請が完了すると、厚生労働省から利用開始に必要な情報が書かれたはがきが届きます。
厚生労働省は令和3年4月以降のLIFE の利用申請にあたっては、通常、毎月25 日までに利用申請があったものについて、 翌月の上旬にはがきを発送するとしています。
ただし、介護報酬改定の前後の利用申請について は、利用申請されたものから随時はがきの送付を行うとしています。令和3年4月 14 日までに利用申請をいただいた場合、令和3年4月末頃までに、はがきの送付をする予定とのことです。
ユーザー登録
はがきが到着した後はユーザー登録を行います。
ユーザーについて
管理ユーザーと操作職員の2種類のユーザーが存在します。管理ユーザーは一つの事業所につき1つです。
操作職員のIDは一つの事業所で複数作成できます。
管理ユーザーが
- 起動アイコンのダウンロード
- ログイン
- 端末登録
- 操作職員の登録
を行った後、操作職員がログインできるようになります。
利用者情報・様式情報の登録
職員の情報を登録したら、いよいよ利用者の情報を登録します。
データの登録はCSVファイルからも取り込むことができます。
入力フォームに入力する場合は、介護サービスの各利用者について氏名や生年月日、要介護度、提供サービスについてなどの登録をします。
加算されるためには
LIFEに情報を入力したからと言って、自動的に加算されるわけではありません。LIFEの活用が要件となっている介護報酬の加算を算定するためには、基本的に、国保連の介護報酬の請求のシステム上でその加算を算定する旨の簡単なチェックを入れることになります。
詳しくは、厚生労働省から「LIFEの利用について」のマニュアルが公開されていますので参考にしてください。
(6)LIFEへ情報提供すべき時期や頻度
LIFEの活用が要件となっている加算は複数あります。それぞれの加算で提供すべき情報の数、時期や頻度が異なります。
提供すべき利用者の情報について
加算によって利用者全員の情報が必要なのか、一部の利用者の情報のみで加算がもらえるのかが異なっています。
利用者全員にLIFE対応した場合の加算
- 科学的介護推進体制加算
- ADL維持等加算
- 栄養アセスメント加算
- 自立支援促進加算
- 褥瘡マネジメント加算
- 排せつ支援加算
該当者にLIFE対応した場合算定
- リハビリテーションマネジメント加算
該当者にLIFE対応した場合上位区分に算定
- 個別機能訓練加算
- 口腔機能向上加算
- 口腔衛生管理加算
入力の頻度が二か月以上ごととされている加算の場合
例えば、3ヶ月に一度入力が必要とされている加算であれば、中間の2ヶ月間は入力がなくても3ヶ月後にデータ入力があれば、当該3ヶ月間は加算を算定することが可能です。しかし、その中間の2ヶ月間は、入力がないとしてもそれ以外の要件は満たしていなければなりません。
(参考:公益社団法人全国老人福祉施設協議会)
(7)新年度に限った猶予措置がある?
今年度から新たに始まった仕組みであるため、LIFE加算には新年度に限った猶予措置が設けられています。
具体的には、
- 今年4月から9月末日までに加算の算定を始める場合は、その月の5ヵ月後の翌月10日までに情報提供することも可能
- 今年10月から来年2月末日までに加算の算定を始める場合は、来年4月10日までに情報提供することも可
というものです。
ですが、猶予措置を使う場合は、その理由や提出予定時期を記載した計画を策定が必要です。その計画の届け出は不要とされていますが、指定権者に求められた場合は提出しなければなりません。
(8)厚生労働省通知のページ・解説動画一覧
新設されたLIFEについて、LIFEを利用した加算について厚生労働省は動画や資料を公開しています。
相談窓口も設置されていますので、参考にしてください。
LIFEの利用についての解説動画・資料
動画内容 | URL |
---|---|
新規利用申請~はがきの受領についての説明 |
https://youtu.be/a6U7QiMbLq4 https://youtu.be/1r4rYjQ-Tck |
初回ログイン・IDの設定についての説明 | |
利用者情報・様式情報の登録の説明 | |
その他の操作についての説明 |
- LIFEの利用についての資料
LIFEについてのお問い合わせ
ヘルプデスク:
メールアドレス…life@toshiba-sol.co.jp
電話:042-340-8819 (平日10:00 ~ 16:00)
(9)データを上手に活用してLIFE加算をもらおう
かねてから注目されてきた介護保険のデータベースですが、今回の介護報酬改定によって、いよいよその本格的な運用が現実的なものとなりました。
介護サービスは、スタッフや環境の違いによって、どうしてもその内容や質が大きく左右されがちです。しかし、データにもとづく科学的介護が導入されれば、そうした格差も極力おさえられ、誰でもより公平で効果的なサービスが受けられる環境がととのっていくでしょう。
そのことは、利用者だけではなく、効率化による負担軽減というかたちで、現場にも大きなメリットをもたらしてくれるはずです。
一方で、いくら科学的介護が普及したとしても、やはり最後に大切になってくるのは、利用者の性格やその場の状況に合わせた柔軟な対応力やコミュニケーションです。今後は、科学的介護へのプラスアルファとして、そうした力量がより介護スタッフにももとめられるようになっていくかもしれません。