広い大子町。スケジュール通りにいかない訪問介護のシフト

茨城県の約20分の1の広さを占め、福島県と栃木県に県境を接する広大で自然豊かな大子町。日本三名瀑にも数えられる「袋田の滝」を有し、町の面積の約8割は八溝山系と阿武隈山系からなる山岳地です。

リケアはそんな大子町にある唯一の訪問介護事業所であり、現在13人の職員が在職中。職員たちはしばしば片道45分以上かけて山道を運転し、交通不便な集落に住む利用者さん宅を訪問して介護支援を行っています。

広い大子町内で訪問介護を行うためには、効率のよい訪問ルートを考え、それに沿った勤務スケジュールを立てていかなければなりません。ですが、前もってスケジュールを組んでいても、当日キャンセルや時間変更で、スケジュール通りにいかないことが多いのが訪問介護の実情。

スケジュール通りに行われなかった勤務シフトの洗い出しとスケジュールの組み直し、それに伴っての給与計算に日々かなりの手間がかかり、それが悩みの種になっていました。

ICTで事務作業の軽減を図る

町の高齢化と過疎化に悩む大子町では、人材不足の解消にITを使った取り組みを奨励しており、町からのすすめもあって、リケアでもICTを導入することが決まりました。

煩雑な事務作業を減らし、コア業務である介護支援の時間を増やした生産性の高い働き方へのシフトチェンジをねらうモデルケースとして、2021年4月にリケアに介護に特化したシステム「ケアズ・コネクト」が導入されました。

「ケアズ・コネクト」は、株式会社ブライト・ヴィーが開発する、介護事業所の運営に特化したICTサービスです。チームケアを行う介護事業所におすすめのサービスで、「業界初のチームICT」というコンセプトを掲げ、スタッフが働きやすい職場環境をつくるための機能を備えています。

リケアでは、ゆくゆくはカレンダー機能や職員への一斉お知らせ機能など、ケアズ・コネクトのシステムの機能すべてを使いこなしていく予定ですが、リケアの職員の平均年齢は53才。

システムアプリをインストールするためのスマホは、かろうじて各自持っているものの、スマホ自体は電話とチャット程度しか利用していないという職員がほとんどです。

そのため、まずはシステムに慣れてもらうためにも、使用緊急度の高い勤怠管理の利用から始めました。

みんなで一緒に進化していく!というベンダーも含めた連帯感

デジタル機器に苦手意識を持っていた職員たちですが、サービス提供責任者の栩内(とちない)さんを中心とする団結力はピカイチ。

「みんながやるなら私も!」とICT活用で働きやすくなった事業所の未来図を頭に描きつつ、デジタルに詳しい事業所内ただ一人の職員、櫻井さんのレクチャーを受けながら、少しずつ仕組みをマスターしていきました。

そして1ヶ月が経った今、ほとんどの職員が問題なく勤怠・スケジュール管理の入力はできるようになったそうです。

「実際やってみたらそんなに難しいものではなかったので、みんなでワイワイ楽しみながら使い方を覚えています」と、栩内さん。「なんか難しそう…」とそれまでは敬遠していたipadやパソコンなども一緒に使えるようになり、自分の世界が広がったのでプライベートまで楽しくなったと笑います。

「問題点が見つかれば、ブライト・ヴィーさんがすぐにフォローしてくれました」とデジタル面で仲間の職員たちをフォローする櫻井さんは、ベンダーのフォローの重要性を語ります。「『こうすればもっと使いやすいかも!』と現場の声を伝えれば、リクエストに対して、より現場が使いやすくなる提案をしてくれます」

▲ケアズ・コネクトと櫻井さんとのやり取り

このシフト自動生成機能は、出退勤を記録するだけでシフトが自動登録される機能です。訪問介護で当日に変更になった勤務スケジュールを、その場で記録することができます。ブライト・ヴィーでは実際に、現場の声を社内で検討し、システム改善に取り組んでいます。今回は、訪問介護事業所リケアの声を反映し、ケアズ・コネクトに「シフト自動生成機能」を実装しました。

「介護現場での実際の声に耳を傾けながら、今以上によいシステムにできるよう、改善を続けていきたい」(株式会社ブライト・ヴィー代表 飯田友一さん)

「それに、」と櫻井さんは続けます。「ブライト・ヴィーさんは名古屋に、私たちは茨城にいますが、多い時には1日おきに連絡を取り合っていましたので、遠いからという不便を感じることはありませんでした。いつも私たちのことを気にかけていてくれる感じでしたので、とても心強かったです。

おかげで勤怠管理に手間がかからなくなったのはもちろん、ブライト・ヴィーさんも職員もみんな一緒に、リケアが進化するためのシステムを作っているというような面白さも感じました。」

▲左から栩内さん、岡﨑さん、櫻井さん

「職員のまとまりがいいのがリケアの特長です。それがスムーズなシステム運用に結びついたと思います」と、大子町社会福祉協議会事務局次長の岡﨑さん。

60代の職員でも取り残されることはなく、すぐに全員がシステムをマスターできるようになったのは、日頃から職員同士の意志の疎通がとれており、連携がうまくいっているからこそなのだと言います。

「それに加えて、きめ細やかなブライト・ヴィーさんのフォローと町のバックアップがあれば、高齢の職員が多い介護事業所でも新しいシステムに対応していくことは可能ですね」

次のステップとして、音声を活用した記録の共有

リケアでは次のステップとして、音声を活用した記録の共有や、全職員に一度に知らせることができるお知らせシステムなどをマスターしていく予定です。一人で利用者さん宅を訪れる場面が多いリケアの職員たちにとって、分からないことを事務所に持ち帰るのではなくその場で解決できるようになれば、かなりの負担軽減になります。

「現場での状況を音声で簡単に記録、職員間で一斉共有し、分からないことは現場ですぐに解決できるようになれば、帰ってきてからの日報書きがなくなるので、各人もう一軒ずつ訪問できるスケジュールが組めるようになるかもしれません」(岡﨑さん)

▲イレギュラー処理は事務職員の櫻井さんがサポート

生産性の高い仕事をすることで時間を生み出し、利用希望者を受け入れていきたい

大子町にたった一軒しかない訪問介護事業所であり、支援内容にかかわらず利用希望者がいれば受け入れたいとしているリケアですが、現状では利用希望者に対して訪問介護員の数が足りておらず、利用希望の待機者が出てしまっているのだそう。ICTシステムの活用により職員がコア業務である介護支援に注力できる環境に整え、利用希望者の受け入れ枠を増やしていくことを今後の目標としています。

町の高齢化率が45%と、介護現場への人材不足への対策が早急に求められる大子町において、注目を浴びるリケアのICT導入。一丸となって、ロールモデルとなるべく新システムの活用に頑張るリケア職員たちの活躍に、ますます期待が高まります。

ライター

 林ぶんこ

7年の愛媛・宇和島生活を終え、2021年より横浜に戻ってきたフリーライター。Webメディアや企業誌を中心に活動中。

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