(1)大子町で働くことで気づいた公務員の面白さ

茨城県大子町の町役場で福祉課の職員として働く神長さん。介護×DX*¹によって大子町を活気づけようと、日々奮闘しています。

「介護×DX」のプロジェクトは、2020年10月に開催された関東経済産業局のガバメントピッチによって実現しました。大子町は6社のベンチャー企業と連携し、システムを導入している段階です。

大子町が抱える高齢化や介護の問題に対して、町が主導でベンチャー企業・介護施設と連携してDXを導入し、事業所の問題を解決・町の強みにすることを目指しています。

*¹ DX…「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

神長 充
大子町役場福祉課職員。茨城県大子町出身。進学にあたり埼玉県に一度移り住むが、大学院卒業後、地元に戻り大子町の町役場職員として勤務。総務、税務課、企画部門を経験した後、現在の福祉課へ異動。地域医療や介護保険事業を担当し、現在は、介護×DXという新たなプロジェクトに挑戦している。

3年で辞めようと思っていた大子町での仕事

私は生まれも育ちも大子町です。高校までは大子町にいましたが、大学で一度埼玉に進学しました。

理系の学部に進学し、大学院と合わせて計6年間埼玉で過ごしました。地元の友達は、高校では地元の高校か水戸の高校に出る2パターンで、大学では都内の方に出る方と県内に残る方に分かれます。私も、都心に出たいという気持ちがありました。

大学は理系に進み、植物の音を聞く研究をしていました。植物に聴診器をあて、水分状態・健康状態を定量的に測るというような研究です。世界的に見ても1桁ぐらいしか研究している方はいないですね。

大学卒業後、最初は研究職を目指していて、役場に勤めると決めた時も、長く勤務するつもりはありませんでした。研究者になるにしても、一度は文系の職を経験し、人としての幅を広げたいという思いがあったためです。

そこで文系の職として思いついたのが公務員で、国家公務員や県職員よりも、町役場の方が現場に近くて自分に合っていると思ったので、町役場を選びました。

‐「地元に戻りたい」気持ちでの就職ではなかったのでしょうか?

正直、大子町に戻りたい気持ちはなかったですね。当時の大子町はネットもつながっていなかった状態だったので、少し抵抗もありました。3年ぐらいを期限として戻り、そのあと研究の道に進もうというつもりでした。

でも、いざ始めてみると役場の仕事の奥深さを知り、もっとこの仕事を極めたいと思うようになりました。公務員は、定期人事異動で全く違う内容の仕事ができるので、転職しているような経験ができることが魅力です。

仕事は部署に応じてやることが全く違うんです。色々な人に出会うし、様々な知識も身につきました。

公務員は、やろうと思えば色々なことができるんです。3,4年で辞めるのはもったいないと思って、気が付いたら14年続けています。

福祉課は6年目になり、最初の2年は地域医療を担当していました。地元の医師も高齢化が進んでいるので、医師も含めて高齢化対策を進めていました。その後、介護保険事業を本格的に始めて、4年目になります。その中で今はDXのプロジェクトを中心に取り組んでいます。

‐大子町の魅力はなんだと思いますか?

埼玉に住んでいた時は、地元に帰ってきたと感じる一番の瞬間が星がきれいなことでした。埼玉などの都会では見えない星が、大子町では見えるんです。

それが「大子町はいいところだな」と思う瞬間です。

(2)介護現場の人材不足の解消へ―大子町がDX導入のロールモデルに

私自身、DXの知識はほとんどありませんでした。また正直、この取り組みに「DX」という言葉を使うつもりもありませんでした。

当初は田舎、ITやICT等の言葉を組み合わせる予定でしたが、都内の自治体と差別化するためにも「田舎×DX」という言葉を使ったというのが本音です。

各スタートアップ*に対して町のPRをした際に、田舎でIT介護という名前を付けていましたが、スタートアップの企業にアピールするためにも、そのあとコンサルティング会社の方と一緒にDXというワードを使うことを決めました。

*スタートアップ…「誰もが考えつかないアイデアで市場を開拓し、そして短期で急成長をする企業」

介護現場の深刻な人材不足を目の当たりにして

‐DXの導入のきっかけはどのようなものでしたか?

介護保険の8期計画策定の際に、介護施設向けに実施したアンケート結果から、介護現場の人材不足の深刻さが明らかになりました。それまで、行政には介護事業所の経営支援という観点がなかったんです。その必要性を痛感したと当時に、介護事業所も行政にそれを求めていることが分かりました。

町内の介護事業所は危機感を感じていても自分たちでどうしようもできない、町でどうにかしてくれないかというアンケート結果が多く、その中を掘り下げると人手が足りないという意見が多かったです。

アンケートとる前からもわかっていたことでしたが、アンケートをとって具体的な数字も明らかになりました。

そのタイミングで、経済産業省から「介護分野のDXを進めているのですが、大子町さんどうですか?」と提案があり、うちもやってみようと決まったんです。

ただ実際にDXを進めるに当たっては、ヘルステックの必要性等について、介護事業所の経営者や関係機関等に理解してもらう必要がありました。また、そこには介護事業所間でも温度差があることも分かったため、時間をかけて丁寧に、それぞれの介護事業所が抱える課題等について一緒に考える必要性を感じました。

導入についてどのように施設側に理解を求めるか、たくさん思考錯誤しました。結果的には、あまり深く考えず、直接事業所に足を運んで関係を築き上げていくことが大切だとわかりました。

事業所ではDX、ITというワードは出さず、まずは、事業所の悩みを抽出してコミュニケーションをしっかりとるところから始めました。そしてDX、ITで解決することを理解してもらえるように説明しています。

すでに大子町の半分ぐらいの事業所がプロジェクトに賛同してくれている状態です。

大子町がDX導入のロールモデルに

大子町は、県内で最も高齢化が進んでいる町です。そのような条件の悪い町でDXが成功すれば、逆に、全国にPRできると考えています。最先端の取り組みを通して、大子町がDX導入のロールモデルになれるように頑張っています。

(3)「課題が多い分、色々な挑戦ができる」大子町での仕事の魅力

‐この仕事の魅力・やりがいはなんだと思いますか?

大子町は課題が多い分、いろいろなことに挑戦できることだと思います。

課題の中には、簡単でないものが多いです。課題に対して試行錯誤することで、自分自身も成長でき、いろいろな分野のたくさんの人たちと出会うことができます。今回もベンチャー企業の方と一緒にプロジェクトをするにあたり、新しい考え方や意識が刺激になりました。

またDX導入の際に直接現場に足を運ぶことで、実際に現場にいかないと得られない情報を沢山聞けたことも魅力に思います。そのおかげで具体的な内情を知ることができました。

町の人と直接コミュニケーションをとることが大切だと気付いた

DX導入にあたり、すべて課長と事業所に訪問し、直接的なコミュニケーションを図りました。私の上司である、大子町福祉課の課長がフットワークが軽い方なんです。二人で一緒に施設を周り、コミュニケーションを沢山とることに務めました。その結果、賛同してくれる施設が増えてきました。

1回目より2回目、2回目より3回目の方が、より深い話をすることができます。町の人と直接コミュニケーションをとることが大切だと実感しましたね。

様々な分野の人たちと協力して

介護分野で、他ではやれてない最先端のものに携われているのはやりがいがあります。またブライトヴィー*様をはじめ意識の高い会社と一緒にやれていることもやりがいですね。

私は大学時代の研究も、誰もやっていないような分野にチャレンジしていました。今回も、まだどこもやっていない取り組みをできることに、とてもワクワクして取り組んでいます。

* 株式会社ブライトヴィー…「『働き続けたい介護現場をサポートする』というミッションを掲げ、主に介護・医療向けシステムの開発・サポートや介護事業所向けホームページ作成等の事業を行っている企業」

株式会社ブライト・ヴィー: 手作りの介護ICTを届けるチーム | BRIGHT VIE

(4)若者で活気づく大子町を目指して

10年後、20年後も若者が住み続ける町に

DXを導入することで、大子町の介護現場で働く人が一人でも多く笑顔になってほしいです。大子町には、清流高校という高校に福祉科があるのですが、ぜひ卒業したら、大子町の介護施設に就職してほしいと思います。

私の小学校の同級生は10人いるのですが、そのうち地元に残っているのは3,4人です。もっと地元に人数が残っていたら楽しいだろうなと思います。だから、大子町で暮らす若い人がもっと増えてほしいですね。進学で一度町から出ても、大学卒業後Uターンで戻ってくる人が多ければ、若者にもいい影響があると思います。

そのためには、若者がUターンしたいと思うような、活気づく町づくりを進めていきたいです。

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