(1)DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

経済産業省の定義によれば、DXとは、

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。

簡単に言えば、「企業が情報技術を仕事や組織に活かして、より便利に、より効率的に変革していく」という概念です。

(2)DXとIT化の違い

デジタル技術の活用というと、DX以外にもいろいろなワードが使われています。この章では、これまでに聞き覚えのあるワードとDXの違いについて説明します。

DXとIT化は何が違うか

DXと同じようにデジタル技術の活用についてよく出てくるワードが、「IT」です。

ITとは、コンピュータとネットワーク技術の総称の略で、IT化は、アナログな作業をIT(コンピュータ等)を使って効率化することをいいます。

身近な例として、車のカーナビが挙げられます。車を運転して目的地に行くときに、これまでは紙の地図を見ていたのが、カーナビゲーションに目的地まで案内してもらうこともIT化による効率化のひとつです。

つまりIT化は「効率化のための手段」であり、DXは「効率化する目的」であるという違いがあります。

DXとICTは何が違うか

ITの他に、「ICT」も良く使われるワードです。

ICTとは、ITに双方向型のコミュケーションを加えた「情報伝達技術」のことです。

身近な例としては、タブレット端末を使った学習システムや一人暮らし高齢者の自宅に設置してある通話ができる見守りセンサーが挙げられます。

ICTもDXもデジタルテクノロジーを使うことは同じですが、ICTは双方向のコミュニケーションに特化しており、目的が異なります。

DXとIoTは何が違うか

IT、ICT以外で、「IoT」も良く使われるワードです。

IoTとは、今までインターネットに繋がっていなかったモノをインターネットに繋げて便利にしていく、つまり「モノのインターネト化」ということです。

身近な例としては、話しかけるだけで音楽が聴けるスマートスピーカーなどがIoTといえます。

IoTは、DⅩを実現するための1つの要素といえます。

DXは社会そのものを変革するということ        

ITやICT、IoTは、手段や手法を指すのに対して、DXは、デジタル技術をもって「社会そのものを変革する」という目的なのです。

(3)なぜ今、DXを推進しなければならないのか        

国では、「デジタル庁(仮称)」を設置し、2020年12月には「デジタル社会の改革に向けた基本方針」が閣議決定され、民間企業に対して、また行政についてもDXを推進しています。

なぜ今、DXを推進しなければならないのでしょうか。それは、「2025年の崖」と言われる問題が迫っているからです。

2025年の崖

19世紀(1999年)から20世紀(2000年)に移行する際にコンピュータが誤作動する恐れがあると言われた2000年問題をきっかけに、多くの企業や行政が基幹系システムを新しくしました。

それから20年が経ち、旧態化した既存システムがブラックボックス化する恐れがある「2025年の崖」が叫ばれています。その要因は、

  • 既存のシステムは「COBOL」という複雑なプログラムで組まれている
  • システムに独自のカスタマイズをする企業や行政が多かったため、システムがさらに複雑化している
  • 2000年前後にシステムを構築した世代が、高齢化により定年を迎えるため、人材不足に陥る

ことなどがあります。これらの要因により、既存システムのサポートが受けられず、蓄積したデータを活かすことができないため、

  • データのブラックボックス化によりデジタル敗者になる
  • システムのランニングコストが増大する
  • サイバー攻撃や災害などによりシステムトラブルの危険性が高まる

などのリスクがあります。

経済産業省は、2025年以降、毎年最大で12兆円もの経済損失が生じる可能性があると報告しています。

一方で、これらの問題を克服すれば、市場での優位性が高まり、さらなる成長が見込まれるとも伝えています。その克服方法の一つがDXです。

消費者の変化

DXの推進が必要な理由は、もう一つあります。それは、消費者マインドの変化に対応するためです。

これまで多くの消費者は欲しいモノを購入する「モノ消費」でしたが、最近では体験することに消費をする「コト消費」に移行しています。

こうした消費者マインドの変化に対応するために、消費者ニーズなどのデータを活かすことのできるDXが必要です。

現状では、経営者がDXを望んでも、実行しきれていない!

DXは、高い次元で企業を変革することです。このため、経営者がDXを望んでも、DXを実行しきれていないことがあります。

その理由は、

  • すぐに効果が出ない
  • コストがかかる
  • 現場の理解が得られない

などがあります。

DXは効果が出るまでに通常3年から5年かかります。このため長期的な計画が必要です。また、DXは、企業を根底から変革していくものなので、システムの入れ替えや新しいシステムの導入など大規模なコストがかかります。

システムの入れ替えや仕事のやり方を変えることは、一時的に現場の負担が増えたり、混乱を招くことがあります。このため、現場サイドの理解を得るのに苦慮します。

こういった理由から、DXが進まなかったり、頓挫してしまうことがあります。

(4)介護業界におけるDX

介護業界もIT化している

介護業界は以前から、人材不足が大きな課題となっており、増え続ける高齢者とのギャップで問題は深刻化していました。また、日常業務が多忙で業務の効率化が叫ばれていました。

その解決策として、介護現場にDXを導入する動きが出てきています。

加えて、新型コロナウイルス感染症の影響で業務の効率化が求められており、ITを用いて業務を効率化する動きがさらに強まっています。

DX導入のメリット

介護業界にDXを導入することで、

  • ペーパーレス化、自動計算などにより業務の効率化が可能になる
  • 業務が効率化することでその分のマンパワーが不要となり、人材不足の解消につながる
  • 利用者の状況をいつでも、どこでも情報共有できるので、サービスが向上する

といったメリットがあります。

この記事では、介護のDXを実現する技術と、DXを推進している自治体を紹介します。

(5)介護業界でDXを実現する技術

介護業界で活用されているDX実現のための技術

介護におけるDXを実現するために様々な技術が開発され、すでに活用されはじめています。介護業界におけるDX実現のための技術は、今後、市場規模の成長が期待されている分野でもあります。

この章では、すでに活用されている技術を3つご紹介します。                   

センサーを使った見守り             

ベットにセンサーを設置し、センサーで収集したデータを高度に処理することで、要介護者(入居者)の就寝時間や起床時間、トイレなどで起きる回数や時間など生活の状況などを自動認識できるシステムです。

このシステムのメリットは、

  • 病室の見回り業務が効率化できる
  • 緊急時の対応が迅速にできる
  • 排泄ケアをタイムリーに介助できる

などが挙げられます。

介護記録の電子化

介護現場での申し送り書やケアの記録、その日の出来事など介護記録は、これまで紙に書いていました。このような記録を電子化する事業所が増えています。

介護記録の電子化のメリットは、

  • 手書きに比べて入力の方が簡単で早い、修正が簡単、どこでも入力できるので事務の効率化になる
  • 電子化によりどこでも、いつでも見ることができるので引継ぎが簡単で、介護スタッフの負担を軽減できる
  • 電子化により利用者のデータが蓄積でき、ケアの向上につながる
  • 電子化により利用者やスタッフのデータのセキュリティの高い管理ができる

などがあります。

AIによる要介護認定

要介護認定者の継続認定や変更認定、新規の認定など、年々増え続ける要介護認定調査票の確認は、これまで自治体職員が行っていました。

そこで、AIが要介護認定調査票の確認を行うシステムが開発されました。要介護認定調査票の確認を職員からAIに替えることで、

  • 自治体職員の業務負担を軽減できる
  • 職員の経験値や力量などによる判断のばらつきがなくなり業務の平準化が可能になる
  • 要介護認定に要する時間が短くなり、申請から認定までの期間が大幅に短縮できることで、市民サービスの向上になる

などのメリットがあります。

この他にも、施設職員間のチャットツールの導入や、介護ロボットの導入、介護事務のシステム化など、介護業界はDXが進んでいます。                   

(6)介護業界でのDX導入事例 大子町における生産性向上としてのDX 

この章では、DXを推進している具体的な事例として、茨城県大子町の取組みをご紹介します。

茨城県大子町の課題

茨城県の北部に位置する大子町には、人口約15,500人の町で、2つの課題を抱えていました。

  • 2人に1人が高齢者(高齢化率46.9%)
  • 生産年齢人口の流出(大子町に住む約2,400人が市外で就労) 

引用:茨城県 市町村のデータ(大子町)

引用:大子町 大子町人口ビジョン

ベンチャー企業とのDX

そこで大子町では、経済産業省関東産業経済局主催の「自治体✖ヘルステックベンチャー共創プログラム」を通じて、6社のベンチャー企業と、社会福祉法人善光会(東京都大田区)、大子町、関東産業経済局が連携しました。

連携したベンチャー企業、社会福祉法人、大子町、関東産業経済局が、介護事業所の課題の分析などを基に、介護事業所の課題意識の醸成を図り、介護事業所とベンチャー企業との円滑かつ効果的なマッチング及びソリューションの導入支援を行う取り組みを行っています。

目的

この取り組みの目的は、

  • 介護事業所の生産性の向上
  • 介護事業所の持続可能性を高める
  • 町民が適切なサービスを受けるための介護資源の確保

となっています。

その他にも好事例が次々と!

茨城県大子町以外にも好事例はたくさんあります。ここで3つの好事例をご紹介します。

社会福祉法人北養会(茨城県水戸市)

スタッフの一括管理システムを導入したことで、事務作業の効率化が図られ、残業が減りスタッフの事務作業の軽減、残業代のコスト削減、引継ぎがスムーズといった効果を得ています。

出典:Care-wing|主な事務作業時間を約60%削減。残業ほぼゼロで若手人材の子育てと仕事の両立を

株式会社おかげ(香川県高松市)

介護記録を紙媒体から電子化にしたことで、ペーパーレス化による紙代のコスト削減や、業務の可視化、ケア漏れをなくすことに繋がりました。

出典:Care-wing|ペーパーレス化、業務の可視化をし、年間158万円のコストカットを実現

すずかぜヘルパーステーション(神奈川県横浜市)

介護スタッフの訪問状況を可視化できるシステムを導入したことで、訪問漏れやケア漏れがなくなりました。また、職場内の情報共有もすすみ、スタッフの直行直帰や在宅ワークを実現しました。

出典:Care-wing|【介護のDX化 事例5選】DX化を具体的にイメージしよう

この他にも好事例が次々とでています。                    

(7)DXで介護の変革を

DXはこれからの社会で必要な変化                        

DXとは、「情報技術を身近な生活や仕事など社会に活かして、より便利に、より効率的に変革していく」という概念です。すでにDXを行っている介護事業所では、

  • 事務の効率化によるスタッフの事務負担の軽減
  • データの情報共有によるケアの向上
  • 人件費や消耗品などのコストカット

といった効果を得ています。

DXで未来をつくる

DXは介護業界の現状の課題を解決するだけでなく、5年後、10年後といった未来の環境改善にもつながります。

業務の効率化・人材不足の解消ができるDXで環境を改善しましょう。


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