介護福祉士実務者研修とは、質の高い介護サービスを提供するために、知識・技術を修得する資格です。
初心者向けの介護資格としては、「介護職員初任者研修」がありますが、介護福祉士実務者研修はそれよりもランクアップした資格です。3年の実務経験に加えて、この実務者研修を修了することで、介護の国家資格である「介護福祉士」の受験資格を得ることもできますから、転職しスキルアップしたい方は意識しておきたい資格です。
介護福祉士実務者研修を取る条件や取得のメリット、取ればどんな転職ができるかを確認しておきましょう。
目次
介護福祉士実務者研修とは?
介護福祉士実務者研修とは、
- 介護職員初任者研修の上級の資格
- 高卒や中卒など学歴に関係なく受験可能
- 資格保持で介護福祉士の受験資格を得られる
- 幅広い利用者に対する介護提供能力を獲得することが目標
- 転職に有利な資格のひとつ
- サービス提供責任者(サ責)としても活躍できる
- 資格手当がもらえる(施設により条件は異なります)
といったポイントが挙げられます。介護福祉士実務者研修の概要を確認していきましょう。
専門的なスキルを持っていることを証明する資格
介護福祉士実務者研修は、「専門的なスキルを持っている」ことを証明する資格です。「介護福祉士実務者研修」を有していることで、介護分野唯一の国家資格「介護福祉士国家試験」の受験も可能になってきます。
介護の研修・資格としては「介護職員初任者研修」と呼ばれるものが存在しますが、こちらは介護の基礎や最低限抑えておかなくてはならないスキルを獲得するのを目的としています。
介護職員初任者研修について詳しく紹介しています。あわせて読んでみてください。
一方、「介護福祉士実務者研修」は、より幅広い専門的なスキルを身につけ、最終的に幅広い利用者に対する介護提供能力を獲得することを目標とします。かつて存在していた資格であるホームヘルパー資格では1級に相当します。
この介護福祉士実務者研修の到達目標は、2年以上の養成課程を持つ「介護福祉士」養成校の到達目標と同等ですから、持っていれば介護のプロとして、多くの職場で評価されるといえるでしょう。
豊富なスキルがあることを証明するので転職に有利
介護福祉士実務者研修を持っていれば、介護の専門的知識があることを証明できるので、転職でかなり有利になります。
たとえば、最近の介護の現場では、「たん吸引」や「経管栄養」といった技能が求められていますが、介護福祉士実務者研修を修了し、喀痰吸引等研修を受講すれば、介護現場で「たんの吸引」や「経管栄養」などの医療的ケアに携わることができるようになります。
介護の技能だけでなく、介護の現場で必要となるコミュニケーション技術といった介護業界に関連する知識を修得していることも証明できるので、訪問介護サービスのコーディネート業務などを行う「サービス提供責任者」としても活躍することができます。
通称「サ責」のサービス提供責任者については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
サービス提供責任者は、訪問介護事業所に配置が義務づけられているので、それだけ活躍の場が広がるという意味を持ちます。介護福祉士実務者研修は自身の活躍の場を増やし、転職のチャンスを広げることができるといえるでしょう。
介護福祉士実務者研修を取得するメリット
介護福祉士実務者研修を取得するメリットを4つご紹介します。
介護に関する高い技術を身につけることで給与アップが見込める
介護福祉士実務者研修を取得するには450時間のカリキュラム修了が必須です。時間だけを見ると、かなり長期間に渡るので尻込みをする人も多いでしょう。
しかし、このカリキュラムによって実務経験だけでは習得できない技能はもちろん、実地で培ってきた知識を体系化できます。
近年、高齢化が進んだことで専門性の高い技能を持つ介護士が求められていますから、活躍の場が広がり転職がしやすくなるメリットがあります。
さらに、資格手当による給与のアップも望めます。今の職場での待遇がよくなるだけでなく、より良い条件の職場に転職することも可能です。
サービス提供責任者になれる
介護福祉士実務者研修を取得すれば、介護の実務経験の有無に関わらず「サービス提供責任者」になることができます。
サービス提供責任者とは、訪問介護事業所の利用者とケアマネジャーやヘルパーとの関係をつなぎ、サービスの計画や利用調整をする仕事 です。
サービス提供責任者は、訪問介護事業所に必ず一人は配置しなくてはならない規則があるにも関わらず、資格を持つ人材はまだまだ不足しています。ですので、介護福祉士実務者研修を取得すればサービス提供責任者としても活躍でき転職が楽になります。
加えて、介護士とサービス提供者の月収差は4万円ほどあります。給与面の条件が良くなるメリットがあるといえるでしょう。
国家資格の介護福祉士の受験資格が得られる
介護福祉士とは、介護業界唯一の国家資格です。介護福祉士の国家資格があれば、かなり転職が楽になりますし、高収入・好待遇の求人も狙えます。
ただし、介護福祉士の受験資格は年々厳しくなってきていて、「専門学校などでの2年間の教育課程を経ていること」などの条件が課されています。
しかし、介護福祉士実務者研修を修了していて、なおかつ、現場での実務経験が3年あれば、介護福祉士の受験資格が得られるだけでなく、実技試験が免除されます。国家資格につながる資格というメリットもあるのです。
たん吸引や経管栄養の知識が身につく
高齢化が進行する昨今、「たん吸引」や「経管栄養」を必要とする人が増えてきました。このような背景もあって、これまで医療行為とされてきた「たん吸引」や「経管栄養」について、介護福祉士実務者研修の資格がある介護職員は、一定の条件のもとで実施が可能になりました。
在宅や老人ホームでは、たん吸引や経管栄養ができる介護職員のニーズがかなり高くなってきています。ですから、介護福祉士実務者研修を修了し、これらの技能を身につけておけば、就職や転職のときには非常に有利になるメリットがあるのです。
介護福祉士実務者研修の資格所持者が活躍できる職場
介護福祉士実務者研修の資格所持者は、
- 介護施設
- 訪問介護事業所
- デイサービス
- 認知症グループホーム
といったすべての介護現場で活躍できます。
実務者研修の修了に加えて、喀痰吸引当研修を受講することで、「たん吸引」や「経管栄養」といった医療行為もできますので、介護の職場の第一線で働くこともできるでしょう。
さらに、介護福祉士実務者研修の資格があれば、サービス提供責任者として介護現場のキーパーソンになることもできます。
介護福祉士実務者研修の資格を活かした転職をしたいのならば、「介護福祉士実務者研修」といったワードを入れて求人検索をすると、好待遇の求人に出会うことができます。
さらに、介護福祉士実務者研修の資格取得のための講座が受けられるスクールの中には、それぞれの適正にあった求人や転職先を紹介してくれるスクールもあります。ですから、就職・転職サポートもしっかりと受けたいならば、それらのフォローもしてくれるスクールを探すようにしましょう。
介護福祉士実務者研修が活かせる転職先・求人情報
介護福祉士実務者研修の資格が活かせる「サ責」の実際の求人情報をみてみましょう。
(※2021/9現在の情報です。情報は変わる可能性があります。)
資格が活かせる訪問介護事業所でのサ責求人
正社員の求人です。
訪問介護の利用の申し込みに係る調整、ご利用者の状態の変化やサービスに関する意向を定期的に把握、サービス担当者会議への出席等によりケアマネジャーやケアワーカー等との連携や、ヘルパー業務などが主なお仕事内容になります。
給与・手当
月給は18.8万円~ですが、住宅手当や各種手当てがつくので大変充実しています。
サービス付き高齢者向け住宅のサ責求人
契約・嘱託・準社員の求人です。正社員登用もあります。
ケアプランに基づいた訪問介護計画書の作成や担当者会議などの打ち合わせや連絡、入居者様やご家族、担当ヘルパーとの連絡調整、ヘルパー管理、稼働表の作成、身体介護、生活援助業務などが主なお仕事内容になります。
給与・手当
月給は16.9万円~。資格手当もしっかりつきます。
介護福祉士実務者研修の資格取得条件と難易度について
介護福祉士実務者研修は、高卒や中卒といった学歴に関係なく受験可能です。介護経験もなくても可です。誰でも受験できるので、資格取得条件と難易度について確認しておきましょう。
資格取得条件
資格取得条件は、450時間のカリキュラムを修了し、試験や課題をクリアすることです。
通信講座でも、スクーリングで直接授業を受けなくてはなりません。その後、実技試験や課題提出をし、合格判定を受ければ資格を取得できます。また、介護資格などを持っていれば、受講時間が一部免除されることもあります。
案外難しい?!取得の難易度
取得の難易度は低いです。課題や試験の結果が悪くても、課題の再提出や追試があり合格するまで挑戦できます。
ですので、取得が難しいということはありません。あえていうと、カリキュラムを修了するために450時間もの時間を捻出する方が大変だといえるでしょう。
通常、4ヶ月~6ヶ月程度かけてカリキュラムを修了する傾向にあるようです。
おわりに:介護福祉士実務者研修を取得してより優位な転職をしよう
介護福祉士実務者研修は450時間ものカリキュラムを受講しなくてはならない大変さもあります。しかし、取得することで、老人ホームのフロアリーダーなどとして、介護業界のキーパーソンとして活躍することが可能です。
資格手当てがつく場合も多いので、給与のアップや好待遇の職場への転職も十分に期待できます。難易度自体は低いので、ぜひ、挑戦してみてください。
監修者コメント
介護福祉士の資格取得の方法は、過去には多岐にわたる多様なルートがありましたが、この実務者研修ができたことで、介護士として必要不可欠なさまざまな知識や技術が体系的に修得できるようになり、人材養成の面からも非常に期待が高まる資格制度となりました。初めて目にする方にとっては、450時間ものボリューミーな学習内容に驚かれるかもしれませんが、近年の超高齢社会にあっては、高齢者の生活ライフスタイルの変化などもあり、多様なニーズが求められる場面も増えています。こうした時代背景にマッチする介護職の育成にはこの実務者研修は欠かせなかったといえるでしょう。この研修を修了し資格を得ることは決してたやすいことではありませんが、挑戦する価値は十分にあります。是非ご検討いただけますと幸いです。
この記事を監修した人
梅沢 佳裕
東北福祉大学社会福祉学部、日本福祉大学大学院社会福祉学専攻修了、社会福祉学修士。
介護専門学校の助教員を経て、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター相談員を歴任する。その後、デイサービスやグループホームの立上げに関わり、自らも管理者となる。2008年に「福祉と介護研究所(個人事業)」を設立。2017年より社名を「福祉と介護研究会35」へと変更し、介護士・相談員・ケアマネジャーなど実務者へのスキルアップ研修を行うが2019年12月に閉鎖。2018年4月から日本福祉大学 助教。2019年4月から健康科学大学 准教授(現在)。
社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター2級
【著書】
「特養・デイサービスの生活相談員 仕事ハンドブック」(中央法規),「施設職員のための介護記録の書き方」(雲母書房),「生活相談員~その役割と仕事力」(雲母書房),「生活リハビリ式記録のススメ」(筒井書房),「よくわかる通所介護計画のつくりかた」(雲母書房)
【雑誌連載】
「支援・生活相談員」 季刊誌(日総研出版),「おはよう21」月刊誌(中央法規出版),「倫理的側面から見直す 不適切記録・記載表現」(日総研出版)など多数.
【監修】
「ポケット版 介護なんでも事典」(主婦の友社),「そのまま使える!介護記録の書き方&文例集」(西東社)