訪問マッサージとは

訪問マッサージとは、歩行が困難で外出が難しく、病院や治療院などに行けない人を対象に、あん摩マッサージ指圧師が自宅などに訪問して、あん摩とマッサージを組み合わせた施術を行うサービスです。

訪問リハビリとの違い

“自宅に訪問して、マッサージの施術を行う“というと、訪問リハビリテーション(通称「訪問リハ」)を思い浮かべる人もいらっしゃると思いますが、訪問リハと訪問マッサージはまったくと言っていいほど違います。

内容ごとに比較してみましょう。

訪問マッサージ 訪問リハビリテーション
目的 関節の動きの改善、疼痛の改善など 体の機能の維持や回復
対象者 寝たきりや歩行が困難な人 要支援1・2、要介護1~5
サービス提供者 あん摩マッサージ指圧師 理学療法士等
保険適用 医療保険 介護保険、医療保険
該当する病気等 麻痺、筋委縮、運動機能障害等 不問
医師の書類 同意書(診断書) 指示書または診療情報提供書
施術内容 マッサージ 運動機能の維持や回復の訓練及び日常生活動作訓練

以上のように、訪問マッサージと訪問リハは、目的や対象者、サービス提供者の資格などが違っています。

訪問マッサージを受けるには医師の診断書が必要

医師が診断書を書いているイメージ

訪問マッサージを医療保険で利用するには、誰でも受けられるわけではなく、条件として医師の診断書が必要となります。

医師の診断書が出る、訪問マッサージの利用対象となる条件は次のとおりです。

保険適用の利用対象者

①次の理由で外出が困難な人

  • 寝たきり
  • 歩行困難
  • 手や足の筋肉に麻痺がる
  • 手や足の関節に拘縮がある

②利用対象となる疾患名

  • 筋麻痺
  • 筋固縮
  • 運動機能障害
  • 四肢筋力低下
  • 関節拘縮
  • 筋委縮
  • 四肢体幹機能障害

以上の方が対象となります。

対象条件に合致しないと、医療保険が適用できず、利用料全額を利用者が負担することになります。

サービスを提供する前に、医療保険が適用するかどうかの条件を確認することが必要です。また、疾患によっても程度の差があるため、最終的には医師の判断によって適応対象なのかが決まります。

訪問マッサージの料金の仕組み

保険適用について

訪問マッサージは、リラクゼーションを目的とした出張マッサージと違って、医師の診断書に基づき、あん摩マッサージ指圧師が行う医療行為です。このため施術費用は医療保険が適用となるので、利用者は一部(1割~3割)の負担だけ行い、差額(9割~7割)は医療保険の保険者である市区町村が負担します。ただし、訪問リハと異なり介護保険は適用外ですのでご注意ください。

また、障害者手帳をお持ちの方は費用が助成される場合があり、一部負担では300円〜500円でサービスを受けることもできます。
生活保護の受給者であれば、医療と同様の扱いなので、無料で利用することが可能です。

料金の仕組み

訪問マッサージは医療保険が適用となるので、マッサージ料金は厚生労働省が定めた料金表に基づいて算出します。

訪問マッサージ料金体系
マッサージ 1局所 340円
温罨法(おんあんぽう)※を併術した場合 1回 80円
変形徒手矯正術を行った場合 1肢 780円
往療料 4キロ以内 2,300円
4キロ超 2,700円
変形徒手矯正術を行った場合 1肢 780円
施術報告書交付料 1回 300円

(出典:厚生労働省「施術に関わる療養費の支給について(平成30年5月24日保発0524第3号保険局長通達)」

※温罨法…身体の一部を温めて病状の改善を図る漢方医学における治療方法

実際に訪問マッサージを利用した際にかかる料金をイメージしやすいように、具体例をもとに料金を算出してみましょう。

体の3か所に温罨法を併用したマッサージを受けた場合の料金は下表のとおりです。

訪問マッサージ料金の具体例
マッサージ 340円×3局所 1,020円
温罨法 80円
往療料(4キロ以内) 2,300円
合計 3,400円

上表の具体例でかかった費用から本人負担(1割)と市負担を算出すると以下の表のとおりです。

1割負担の場合の本人負担と市負担
本人負担 340円
市負担 3,060円

訪問マッサージを行うために必要な資格とは?

訪問マッサージを行う場合は、必ず「あん摩マッサージ指圧師」の資格が必要となります。あん摩マッサージ指圧師の資格について詳しくみていきましょう。

あん摩マッサージ指圧師の資格取得について

あん摩マッサージ指圧師の資格は国家資格で、公益財団法人東洋療法研究試験財団が、年1回試験を行っています。

あん摩マッサージ指圧師には、幅広い知識としっかりとした技術が求められるので、資格を取得するにあたっては専門学校でしっかりと知識と技術を身につけることをお勧めします。

あん摩マッサージ指圧師の試験概要

受験資格 文部科学大臣が認定した大学または、厚生労働大臣が認定した養成施設(専門学校)を修了した者
受験手数料 14,400円(令和3年の受験手数料)
試験の時期 毎年2月
試験会場 東京都、大阪府、宮城県、愛知県、香川県、鹿児島県
試験科目 医療概論、衛生学・公衆衛生学、関係法規、解剖学、生理学、病理学概論、臨床医学総論、臨床医学各論、リハビリテーション医学、東洋医学概論・経路経穴概論、あん摩マッサージ指圧理論、東洋医学臨床論
合格基準 150点満点中、90点以上

訪問マッサージを開業するには

あん摩マッサージ指圧師が足をマッサージしている様子

あん摩マッサージ指圧師の資格を取得した方は、個人で訪問マッサージ店を開業し、サービスを提供することが多いようです。そこで、まずは訪問マッサージを開業するために準備する5つの項目についてご説明します。

保健所に開業に関する書類の提出

開業するエリアを管轄している保健所に開業に関する届け出を提出します。

  • 治療院を開院する場合は、資格の免許(本物と写し)、身分証明、図面等と一緒に開設届を提出します。
  • 訪問のみの場合は、資格の免許(本物と写し)、身分証明、出張届を提出します。

届出書は、保健所のホームページからダウンロードできます。また、必要書類は上記以外に求められることもあるので、事前に保健所のホームページで確認しておきましょう。

税務署に開業届を提出

開業するエリアの税務署に開業届を提出します。書式については、国税庁のホームページをご覧ください。

また、毎年、2月15日~3月15日の間に、事業の売上など税に関する申告(青色申告など)が必要です。こちらもお忘れなく。

PR

開業前には、ホームページやチラシの製作・配布、タウン誌などへの掲載でPRしておきましょう。特に、高齢者や障害者、公的サービスを取り扱う地域包括支援センターやエリア内の居宅介護支援事業所へのPRは、忘れずに、対応エリアや対応時間など詳細事項をしっかり宣伝しておきましょう。

損害賠償保険への加入

訪問先のお宅で誤って家財を壊した、施術のさいに誤って身体にケガを負わせたなど、不慮のトラブルを起こしてしまうことがあります。このためにも損害賠償の保険に加入をしておきましょう。

専門職の会への入会

事業を継続していくには、医療サービスや保険サービス、地域の公的サービスなどの制度改正やマッサージに関する技術の向上など、いろいろな情報を得ておくことが必要です。そのためには、専門職の会に入会しておくことをお勧めします。
公益社団法人日本あん摩マッサージ指圧会

訪問マッサージを開業する際は資格や料金体系に気を付けよう

訪問マッサージは、国家資格のあん摩マッサージ指圧師が自宅に訪問してマッサージを行う医療行為のサービスです。利用対象者は、歩行困難や寝たきりなどで外出することが出来ない人で、医師の診断書が必要となります。

利用料は、厚生労働省が定めた料金体系に従い、その一部を利用者が負担し、残りを市区町村が負担します。

自分で訪問マッサージの事業を始めるには、あん摩マッサージ指圧師の資格を取得し、保健所や事務所への届け出、地域包括支援センターなどへのPR、損害賠償保険の加入、専門職の会への加入などが必要です。

「うっかり!」では済まされない不正請求

訪問マッサージは医療保険が適用されるので、当然、条件やルールがあります。しかしながら、

  • 訪問マッサージ(あん摩)
  • はり
  • きゅう

など、いわゆる「あはき」での不正受給は、2約8年間で271事業者、約5万5千件、約9億5千万円も発生しています。さらに不正受給の内訳をみると、「あはき」のうち61%がマッサージ(あん摩)と断トツのトップになっています。

不正の内容は、1位が往療料の水増しで139件、2位が施術回数の水増しで53件、以下、同一家屋の複数患者の施術に対する往診料の重複算定、歩行可能者に対する往療料の算定、申請書・同意書の偽造、架空請求などがあります。

故意にせよ、うっかりミスにせよ、事実と違う請求を行うと「不正請求」になります。不正請求となると、誤った計算で得た報酬を返還するだけでなく、悪質な場合は、今後、代理受領(利用料のうち本人負担分を差し引いた金額を市区町村に請求して報酬を受領すること)に制限が加えられたり、刑事告発という事態に発展してしまうこともあるので、請求には十分気をつける必要があります。

(出典:厚生労働省「後期高齢者医療広域連合におけるあはき療養費の不正事例について」

特色を出して、訪問マッサージの事業をはじめよう

訪問マッサージは、医療保険制度でのサービスのため、利用料金などは一律です。このため、利用者はマッサージの技術や会話などで事業者を選びます。

これから訪問マッサージの事業を行うのであれば、”高齢者向き“、”会話も楽しい“、”健康のことをいろいろ教えてくれる“など、ぜひ、特色のある事業所をはじめてみましょう。

訪問マッサージで働きたい場合は?

個人で開業して訪問マッサージサービスを提供すれば、売り上げがすべて自分のものになるメリットがあります。しかし、初心者には、法律やPR方法などが難しいのではないでしょうか?

個人で働くのが不安ならば、訪問治療院などに雇用されて働くのがおすすめです。訪問治療院で経験を積んでから、独立開業を目指してみても良いでしょう。

訪問治療院で働く場合の給与とは?

訪問治療院の給与は、住んでいる地域や雇用形態により変わります。

しかしながら、平成28年に行われた「 第5回あん摩マッサージ指圧師・はり師およびきゅう師免許取得者の進路状況アンケート調査報告書」によると、あん摩マッサージ指圧師の平均月収金額は20万円から25万円の間が一番多く、年収に換算すると300万円から400万円ほどになります。

訪問治療院の求人を確認しても、だいたいが20万円から25万円の月収での募集となっていました。ただし、訪問治療院の多くはインセンティブ制度を導入しているので、働き方次第では、平均よりも多い年収になることもあります。

なお、個人開業の場合の平均的な月額報酬額は30万円以上となっていますから、雇用されて働く場合は、開業よりも給与が低くなるといえるでしょう。

訪問治療院で働く場合、資格や経験は必要?

訪問治療院で働く場合、あん摩マッサージ指圧師の資格は必須です。資格がない場合、訪問治療院で訪問マッサージサービスを行えません。

一方、経験に関しては未経験歓迎としている治療院が多いので、資格はあるものの経験が無いという人も働けます

なお、未経験者が訪問治療院で働く場合は、研修などがしっかりとしている施設がおすすめです。介護の転職・求人サイトを利用して、自分に合った施設を探してみてください。

介護の転職・求人サイトは以下で詳しくご紹介しています。現役介護士おすすめエージェントだけを厳選していますので、ぜひあわせてご覧ください。

訪問マッサージの転職先・求人情報

ここでは、資格を活かした他の転職先を紹介いたします。
(※2020/10現在の情報です。情報は変わる可能性があります。)

あん摩マッサージ指圧師の求人

正社員の求人です。あん摩マッサージ指圧師と普通自動車免許(AT限定可)が必須資格です。デイサービスでの機能訓練業務が主なお仕事になります。月給は20万~30万です。賞与は年に2回。技能手当もつきます。

あん摩マッサージ指圧師の他、機能訓練指導員の最新の求人はこちらからご覧ください。

おわりに:やりがいの多い訪問マッサージの仕事を目指そう

訪問マッサージをしているイメージ

身体の機能回復や維持を目的の一つとしている訪問リハビリに対して、訪問マッサージは身体のメンテナンスが目的になります。

マッサージは、利用者の体を楽にし、精神的にリラックスさせてあげることもできます。身体が不自由な利用者の生活を豊かにすることができる仕事なので、とてもやりがいがあります。

訪問マッサージを行うには、資格取得などの大変さもありますが、やりがいと責任感を感じながらできる仕事なので、ぜひ目指してみてください。

監修者コメント

訪問マッサージは、医療保険が適用されるほど効果が認められているサービスのひとつです。

身体が動きにくい方、外出が困難な方は、関節や筋肉が硬くなりやすく痛みも生じやすい状態にあります。痛みがあると動く意欲がなくなり、さらに悪い状態へ、といった悪循環に陥る可能性もあるため注意が必要です。身体の不快感を少しでも楽にすることで、気持ち的にも前向きに生活ができるようになるでしょう。

費用面が抑えられるのはもちろんですが、介護保険サービスを利用しながら併用して受けることができるのも有難いポイントです。2025年問題といわれる、後期高齢者が急増するタイミングが迫っている今、多くの人々から求められる職業でもある訪問マッサージは今後さらに注目されるでしょう。

あん摩マッサージ指圧師の資格を取得するためには、専門学校などを卒業して国家試験に合格しなければならず多くの時間が必要です。

しかし、これから増える需要を考えれば、取得する価値は十分にある資格だといえます。

利用する側にとっては少ない費用で心身ともにたくさんのメリットが得られ、提供する側は直接的に感謝されることでのやりがいや、多くの顧客がいることで安定した収益に期待ができるでしょう。

この記事を監修した人

大久保 圭祐

資格:作業療法士、介護福祉士、介護支援専門員総合病院に6年間勤務し、脳神経外科や整形外科のリハビリテーションを中心に、急性期・回復期・慢性期の全ての時期を経験。
脳卒中後の麻痺や高次脳機能障害、上肢の骨折、五十肩など、さまざまな疾患に対してのリハビリを提供し、多くの患者様の在宅復帰や社会復帰に貢献した。その後、介護支援専門員の資格を取得して家族と共に介護事業を設立し、居宅支援事業所と訪問介護事業をスタート。さらに通所介護、有料老人ホームと徐々に事業を拡大する。
代表取締役であると同時に、現場では機能訓練指導員・介護職・ケアマネージャーを勤めプレイングマネージャーとして活躍した。
現在は、経営業務をメインに監修者やライターとしても活動中である。