少子高齢化社会の拡大に伴い、需要が拡大している介護業界。この10年間、介護業界での働き方にもかなり変化がありました。今回は法改正が行われるたびに、活躍の場を広げてきた介護福祉士の仕事をご紹介します。

介護保険制度の改正が業務拡大のきっかけに

現在の介護保険制度は2000年4月1日にスタートしました。当時の法改正には、介護を必要とする高齢者の増加や、高齢者を介護する家族の負担増加による、高齢者虐待やなどが社会問題になり、高齢者介護を家族だけでなく、社会全体で支える仕組み作りが急務となっていた点が背景にありました。

当初、介護福祉士が行う「介護」とは、「入浴、排せつ、食事その他の介護」と限定的な仕事範囲でした。しかし、近年の介護・福祉ニーズの多様化・高度化によって、介護福祉士が行うことのできる仕事内容は大きく変化しています。では、具体的に介護福祉士ができる仕事内容には何があるのでしょうか。法律改正も踏まえて見ていきましょう。

介護福祉士が入浴介助もできなかった時代がある

本来、介護福祉士の「医行為」(医師でなければ行ってはいけない行為)は法律上認められていませんでした。以下の項目は、「平成」がスタートした1989年の厚生労働省の報告書で“医行為に当たる”とされていた行為の代表例です。しかし、その後の日本ALS協会の働き掛けによって、現在では介護福祉士によるこれらの行為が認められるようになりました。

1.入浴介助

高齢者介護施設利用者や在宅介護を受ける方々が楽しみにしていることの一つが入浴。入浴介助の目的には精神的・肉体的な緊張を和らげ、快適な睡眠の導入などがあります。安全の確保、体温・脈拍の確認、湯温、所要時間、適度な水分補給の5点に注意しましょう。

  • 利用者の精神面と肉体面の緊張を和らげる目的で実施
  • 湯温や水分補給に気を付けて、安全面の配慮を行う

2.食事指導

美味しい食事をとることは、気分を前向きにし、他者との交流促進や健康増進などをもたらします。利用者の身体状況・年齢・嗜好を考慮した献立、鮮度の確認、清潔な食事環境、利用者の生活様式、習慣の尊重、食事の際の適切で安全な介助、などに気を付けましょう。

  • 栄養バランスの取れた食事の安全な摂取を行う
  • 鮮度の確認だけでなく、利用者の嗜好にも配慮する

3.バイタルサインの検査

バイタルサインとは、「体温」「呼吸」「脈拍」「血圧」「意識」の5つを意味します。要介護者の体温や脈拍などは決まった時間に毎日検査しましょう。また、食欲の減退や声の調子などに要介護者の健康状態は表れやすいです。いつもと様子が違うときにはバイタルサインを検査しましょう。2005年の厚労省の報告書では“医行為に当たらない”とされる範囲が拡大し、介護福祉士の行える仕事が増えました。

  • 「体温」「呼吸」「脈拍」「血圧」「意識」の5つを検査する
  • 決まった時間に毎日行う
  • 利用者に異変が見られたら、検査時間でなくても行う

4.パルスオキシメーター(酸素濃度測定器)の装着

指先を洗濯バサミのような機器で挟み、血液内で酸素を運ぶヘモグロビンの酸素飽和度を知ることで、介護者の呼吸状態を把握することができます。安静時の健常者で96~100%、酸素飽和度が90%を切ると「呼吸不全」です。しかし、これらの数値をもとに、介護福祉士が薬を服用するといった医学的判断はできません。

  • 血液内のヘモグロビン酸素飽和度を調べること
  • 利用者の呼吸状態を把握するために行う

5.軽い切り傷、擦り傷などの処置

創傷部や刺傷から病原体が侵入し、要介護者に別の病気を招く恐れもあります。また、血液を介した感染を防ぐため、血液には素手で触れないことが原則です。エプロン、マスク、手袋を装着し、適切な処置を行いましょう。

  • 軽い傷の処置を行う
  • 感染防止のため、血液などには素手で触れないようにする

6.利用者に薬を飲ませる

正しい服薬は治療効果をもたらしますが、誤った服用は生命への危険もあります。正しい用量と服用時間の順守、保存方法と有効期限、変色などの有無の確認、薬保管ケースを利用した医薬品の管理方法などに注意しましょう。

介護士による爪切りや口腔ケアが可能に

介護保険法は3年ごとに見直しが行われます。これまで法改正の度に「医療行為」に対する考え方も変わり、介護士の活躍できる場所も増えてきました。

これから紹介するものは、2005年報告書では“医行為に当たらない”とされ、現在では介護士が当然のように施術しているものばかりですが、1989年の報告書では“医行為に当たる”とされ、介護福祉士は行うことができませんでした。社会での介護に対する理解の深まりと共に、介護職は活躍の場を広げてきています。

  • 利用者が正しく薬を服用できるように管理する
  • 医療行為に当たるとされて、禁止される可能性もある

介護福祉士が利用者の歯を磨いている様子

7.爪の手入れ、爪切り

伸びすぎた爪は、皮膚を傷つける可能性があります。医療職と要介護者に実施の確認を行った後、要介護者の楽な姿勢を確保します。爪の端から少しずつ切り始め、もろくなった爪はやすりで削ります。切り終わったらハンドクリームを塗りましょう。
ただし、白癬菌などで肥厚した爪は切ることができません。あくまでも普通の爪切りでできる範囲内です。

  • もろくなった爪を割らないように注意して手入れする
  • 医療行為に当たるとされて、禁止される可能性もある

8.口腔ケア

歯磨きを行うことで、虫歯の予防などをしましょう。要介護者の正面に位置し、口腔内を湿らせるために一度うがいをしてもらいます。歯ブラシの毛先の角度は歯面に対して90度、歯肉構は45度に当てます。力を入れすぎず、小刻みに磨きます。

  • 虫歯予防を目的に歯磨きをする
  • 力を入れすぎないようにするなどの配慮が必要

やる気次第で介護福祉士も医療ケアができる時代に

2011年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が改正されると、介護福祉士の仕事範囲はさらに拡大しました。在宅医療の推進や、医療依存度が高い人の増加といった背景もあり、介護福祉士及び一定の研修を受けた介護職員等が、たんの吸引や経管栄養といった医療的ケアの一部を行うことが可能となりました。

9.たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)

現在、介護業界で働いている人がたんの吸引業務に従事するためには、都道府県の認定を受ける必要があります。また、新規の介護福祉士(平成28年1月の国家試験合格者以降)を受験者がたんの吸引を行うためには、養成課程において吸引に関する知識や技能を修得しなければなりません。要介護者の生命に関わる重要な仕事です。専門機関でしっかりと知識や技能を身につけましょう。

  • 口腔内、鼻腔内などのたんの吸引を行う
  • 専門機関で、知識と技能を身に着けて、資格を取得することで行える

10.経管栄養(胃ろう又は腸ろう、経鼻経管栄養)

経管栄養とは、鼻、または腹部の皮膚から直接、胃にチューブを入れ栄養補給を行う方法です。要介護者に食事開始を伝え、手や口などを拭いてあげましょう。ベッドの角度は30~60度にギャッチアップ。栄養剤を注入中は利用者の状態を観察し、終了後は医療職に終了を伝えます。食後は口腔ケアをします。

  • 自力で食事を取りにくい利用者のために、胃ろう又は腸ろうによって栄養補給を行う
  • 専門機関で、知識と技能を身につけて、資格を取得することで行える

おわりに:移りゆく介護業界の理解とニーズ

介護福祉士と車椅子に乗った利用者のイメージ

「平成」が始まった1989年と2021年の介護福祉士の仕事内容を比較してきましたが、社会の介護に対する理解の深まりや、ニーズが高まりを背景に介護福祉士の活躍場所は拡大しています。もし過去に介護業界に携わっていた経験があるようでしたら、今後も需要の高まりが予想される介護業界で、もう一度活躍してみませんか?

こちらの記事では、介護職に特化した転職サービスをまとめて紹介しています。転職活動時にぜひ読んでみてください。

監修者コメント

介護福祉士だけではなく、看護師も特定行為など医師のみが許されてきた仕事が一定条件下で行うことができるようになってきています。
介護と看護は職種が違えど、同じ業務をすることが多い職種のため、医療行為を介護職が行えるようになると、看護師は他の業務を行うことができるようになります。
また医療行為ができるように改正されているということは介護福祉士も専門職として期待されているということです。
生活のプロとして、できることが増えるのは嬉しい反面、きちんとした技術や知識を求められるため、それなりの努力と責任が必要になってきます。
すでに介護職の需要は高いため、医療行為に挑戦してみて損はないです。

この記事を監修した人

周田さん

周田 佳介

資格:正看護師、介護福祉士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、介護職員等による喀痰吸引等の研修指導看護師

高校卒業から介護医療現場で勤務し、現在は現役訪問看護師として活動している。
これまでに急性期病棟、慢性期病棟、特別養護老人ホーム、グループホーム、訪問介護事業所に勤務経験があり、医療・介護ともに関わってきた。
また介護職員等による喀痰吸引研修の指導者として介護職員の育成にも携わっている。