介護業界ではこれまで接遇マナーはおざなりにされてきました。しかし、時代は変わり接遇マナーの重要性は認知されてきています。接遇マナーが重要なのは、家族や外部の人と連絡を取り合うことの多い相談援助職だけではありません。むしろ利用者と日々接する機会の多い介護職こそ、接遇マナーを身につけておくことが重要だといえるでしょう。多くの事業所で、管理者だけでなく介護職も対象とした接遇研修が行われています。これからの介護職が身につけておくべき接遇の心得について紹介します。

 

介護職にも接遇マナーの習得が求められるようになった時代背景

介護業界で接遇マナーが重要視されるようになってきたのは比較的最近のことです。接遇マナーが着目されるようになった背景には3つの要因が考えられます。

1つ目は介護保険導入による介護のサービス化です。自治体による措置からサービスへと変化することによって、これまでは単に与えられるだけであったものを利用者が自由に選択することができるようになりました。

2つ目は参入業者の増加です。介護事業が社会福祉法人や医療法人など一部の法人の特権事業であったものが、介護保険導入から徐々に民間にも開放されてきました。多数の事業所が参入することによって競争が激化し、他事業所との差をつけるためにも接遇マナーが注目されるようになったのです。

3つ目に利用者のサービスを見る目が厳しくなった点が挙げられます。サービスの選択肢が少なかった時代には、サービスが悪いと感じてもほかに選択肢はありませんでした。同じ種類のサービスを提供する事業所が増えるにつれて、利用者の目も肥えてきます。また、家族の意識も昔とは大きく変わってきています。かつては「預かってもらえるのならどこでもいい」と考える家族も多く存在しました。情報や噂が巷に溢れている現在は、それらを十分に見定めてから事業所を選ぶ家族が増えています。利用者も家族もよりよい介護サービスを求める時代になったのです。

さらに、高級志向の施設や事業所の出現も見逃せません。高齢者のニーズの多様化に伴い、さまざまな種類の老人ホームが出現してきました。なかには入居金や月々の支払いが高額なかわりに、高品質の接遇と設備を謳う老人ホームも増えています。こうした事業所の出現も、介護業界全体の接遇への意識を押し上げているといえるでしょう。

 

介護職が身につけておくべき接遇の心得とは

介護職が身につけておくべき接遇の基本として、次の4つのポイントを押さえておきましょう。

1つ目は挨拶です。挨拶をする際には相手と目を合わせているか、柔らかい表情になっているかを意識することが大切です。相手が車椅子の利用者であれば、相手の目線の高さに合わせることも重要になります。笑顔で接することも挨拶の基本といえるでしょう。誰かと接するときには常に口角を上げることを意識しているかいないかで、挨拶が与える影響は大きく変わってきます。

2つ目は身だしなみです。利用者の身体に直接触れる機会が多い仕事だからこそ、清潔面には十分な配慮が欠かせません。爪は短く切りそろえているか、長い髪の毛はきちんとまとめられているかといったポイントは、利用者に不快な思いをさせないという観点からも重要になってきます。また、服装が乱れていると来客者にだらしない事業所という印象を与えてしまいます。制服が貸与されているのであれば、ルールを守って着こなしましょう。また、制服がないのであれば派手すぎず、くたびれていない服を選びましょう。

3つ目は言葉遣いです。利用者に対して話をするときに馴れ馴れしくはないか、今一度チェックしてみましょう。話すスピードや高さも高齢者相手には確認しておきたいポイントです。普段話すよりもかなりゆっくりと、そして低い声で話すことを意識することで、相手にとって聞き取りやすい話し方になります。ほかにも、家族と話をするときにわかりにくい専門用語を使わないといったことも、気をつけたいポイントになります。

4つ目は姿勢や態度です。これは挨拶の際の笑顔と通ずるものです。介護職の多くは現場で業務に追われており、利用者や家族に呼び止められると、つい業務をしながら対応してしまいがちです。ながら応対は相手に嫌な印象を与えてしまいます。実行中の業務が利用者の介護であるならば、利用者に対しても失礼な行為です。ながら応対をするのと「少々お待ちいただけますか」と声をかけて、きちんと聞く姿勢を作ってから対応するのとでは、相手に与える印象は全く異なります。

 

接遇がもたらすものは利用者や家族との信頼関係

接遇には、単に相手と接するという意味だけでなく、もてなすという意味も含まれます。もてなすとは大事に思う相手を心を込めて歓待するといった意味合いです。つまり介護職には、相手を大切に思う心を伝えるスキルが求められているのです。相手を大切に思う心は、相手のことを尊重する気持ちと言い換えることもできるでしょう。

このように考えてみると、介護と接遇は相性が悪いものではなく、反対に不可分のものであることがわかります。利用者の尊厳を守るケアは介護の基本原則といえるものです。尊厳を守るケアとは、まさに利用者のことを尊重する態度そのものではないでしょうか。また、介護そのものに接遇という概念が含まれているとも考えられます。接遇の心得を身につけることは、そのままケアの基本を身につけることにつながります。社会人としての基本的な接遇マナーを改めて身につけることは、利用者や家族との信頼関係を築き、介護職としての大きなステップアップになるでしょう。