介護保険改正の議論が日々進められています。2025年、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になるときに備えて、急ピッチで高齢者を取り巻く環境の整備が進められている状況です。そんな中で政府は、介護事業者による機能訓練の強化を打ち出しました。すでに平成27年度の介護報酬改定において、地域包括ケアシステムの構築と、活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションの推進が強化されています。その真意はどこにあるのでしょうか。

 

機能訓練が求められる背景

機能訓練が強く進められる理由を知るためには、その背景を理解する必要があります。現在政府は今後の介護保険制度の方針として、地域包括ケアの推進と重度要介護者への介護力集中を明言しています。それぞれ具体的な内容に落とし込むと、前者は軽度の要介護者に対して介護保険を使わず地域でみていくこと、後者は介護施設に入所する人を重度の認知症もしくは要介護者に制限することとなるでしょう。背景には介護保険の財政状況があります。2000年に3.6兆円規模で始まった介護保険制度は、2012年には8.9兆円にまで膨らんでいます。この額は今後ますます増大することが予想されており、今のままでは近いうちに制度自体が破綻してしまうことは明白な状況です。

 

重度要介護者の受け入れと機能訓練の強化。矛盾するようにも見えるが…

この状況を少しでも打開しようとして、政府は前述の方針を打ち出しました。言い換えればこれは介護保険制度の縮小であり、軽度要介護者を保険外とすることです。これまで以上に施設には重度者が、地域には必要な介護が受けられない人が溢れかえることが予想されます。今のままでは介護保険制度が破綻するだけでなく、介護を必要とする高齢者の生活も成り立たない。その危機感が機能訓練の強化に繋がっているといえます。機能訓練を行うことによって、高齢者が自分でできることが増えれば、地域や施設の介護負担は減るでしょう。また、要介護予備群に対しても積極的な予防措置をとることによって、そもそも介護が必要な人の数自体を減らすことも意図されています。

 

若年者のリハビリと高齢者の機能訓練は別物!?

しかしながらここで注意したい点があります。それは本当に機能訓練によって高齢者の能力は向上するのだろうかということです。若年者のリハビリの場合、その目的は明確です。事故や病気などなんらかの理由によって一時的に低下した身体能力を、以前と同等のレベルまで回復させることがその目的です。一方、高齢者の場合は同様の目的を目指すわけにはいかない理由があります。それは、身体能力低下の原因そのものが加齢によるものであり、一時的なものではないからです。誰一人として老い、そして死には勝てません。ある程度の健康を維持することは可能ですが、年齢以上の身体能力の維持をすべての人に求めるのは、困難なことと言わざるをえないでしょう。そしてもうひとつ、認知症も困難さの理由に挙げられます。認知症になると機能訓練の指示自体を理解できず、思い通りのリハビリができなくなります。認知症だけでなく老齢になると多くの人に意欲の低下が見られ、リハビリに十分な目的意識を持って取り組むことが難しい場合も多々出てくるでしょう。いくら事業所側が積極的な機能訓練を推し進めようとしても、快調に前へと進まない理由もあるのです。

 

これからの介護事業所がたどる道

これから多くの介護事業所は、非常に難しい選択を迫られることになるでしょう。機能訓練の推進はすでに決まっていることであり、どの事業所も実施する可能性が高まっています。その一方で前述の通り、すべての高齢者がその対象となるわけではありません。重度の認知症高齢者を積極的に受け入れる施設ほど、機能訓練では成果を残せないということにもなるでしょう。機能訓練と重度要介護者の受け入れは相反するものではありませんが、すべての部分で重なり合うわけでもないのです。介護施設が一時的な身体能力低下者を積極的に受け入れ、加算を算定する一方で、重度の認知症高齢者は地域に残したままにする。あまり想像したくはないことですが、機能訓練の推進によってこのような未来が描かれる可能性も、決してないとはいえません。

 

自立支援こそが介護の基本理念

介護保険の制度がどのように変わるにせよ、介護に従事する以上、次のことは忘れないようにしたいものです。介護保険の基本理念は自立支援であり、自立とはその人に何でもしてあげることではありません。できることは自分でやった上で、できない部分は人に助けてもらいながら、自分らしい生活を送ることこそ、介護の目指す自立支援のあり方です。
高齢になっても健康で誰の手助けも借りないことは、素晴らしいことではありますが、強制することはできません。多様な生き方を理解して年齢を問わず多くの人が幸せに暮らせるためにこそ、機能訓練は推進されるべきではないでしょうか。

参照URL: 厚生労働省「平成27年度介護報酬改定の骨子」