今や多くの介護施設では、看取りを行うのが当たり前のことになってきました。以前は終末期になると病院に移っていた人の多くが施設で最期を迎えることになり、介護士が死に直面する機会もこれまで以上に増えてきています。その人の最期を確認した後に行うケアのことをエンゼルケアといいますが、これまでは看取りを行う介護施設であっても看護師が行うのが一般的でした。しかし、近年では介護士がエンゼルケアを行う施設も増えてきています。もっとも多くの介護士はエンゼルケアの基本や知識を学ぶ機会がなく、見よう見まねで行っているのが現状でしょう。施設での看取りをより良いものにするために、エンゼルケアの基本を学びましょう。

エンゼルケアをする前に知っておきたいこと

エンゼルケアを実施することができるのは、医師が死亡確認を行ってからになります。現在死亡確認ができるのは医師だけであり、看護師や介護士が行うことはできません。多くの介護施設では医師が常駐していないでしょうから、脈が止まった後に嘱託医師に連絡をして、来てもらうことになります。医師の死亡診断後に初めてエンゼルケアを実施できるということを忘れないようにしましょう。
エンゼルケアは看護師の手技のように思われていますが、実際にはエンゼルケアを行うために必要な資格があるわけではありません。葬儀会社の人がすべて看護師資格を持っているわけではないことからもそれはわかります。亡くなられた方は医師の死亡診断後は遺体として扱われるようになります。遺体は法律上荷物として扱われ、その所有権が遺族に生じるということも覚えておくとよいでしょう。つまり遺族の承認なしに勝手にエンゼルケアやその他のケアを行うことは認められていないので注意が必要です。
それでは介護士がすべて行っても問題ないかというと、これもやや難しいところです。例えば点滴を行っている方の針を抜去するのは医療行為にあたり、看護師でなければできません。他にも腹部圧迫による尿や便の摘出や各腔への詰め物なども看護師の役割となります。現時点でこれらの行為は介護士が行うことはできませんから、多くの場合エンゼルケアを行うのは看護師と組んでということになるでしょう。

エンゼルケアの具体的な手順と注意点

それでは具体的なエンゼルケアの手順を見ていくことにします。まずは医師による死亡診断を受けてしばらくは、家族とご遺体とのお別れの時間になります。少なくとも5分から10分ほどはご家族だけの時間を設けたいものです。その後に死後の処置を行うことになります。まずは腹部を圧迫し、尿と便を押し出します。しっかりと排出できたらきれいなおむつに交換しておきましょう。次に全身の清拭を行います。生前と変わらぬ方法で全身をきれいに拭ってあげましょう。昔は消毒薬を使っていたようですが、最近ではほとんど使うことはありません。その後口腔清拭も行います。このとき義歯の有無の確認を忘れないようにしましょう。義歯をはめ忘れてしまうと、両頬がくぼんでしまいます。全身をきれいにしたら、各腔に詰め物をしていきます。鼻や耳、肛門などに脱脂綿を詰めこんでいきましょう。最近では詰め物よりも冷却する方が内容物の漏出を防ぐことができるという研究もあり、詰め物をしない施設や病院も増えてきました。
襟を左前にして寝衣を着せたら、男性の場合は髭剃り、女性の場合は薄化粧を行います。可能であれば生前にどのようなお化粧をしてほしいか確認しておくのもよいでしょう。最後に口を閉じ、両手を胸の前で合掌させます。硬直が始まるまではそれぞれ包帯や合掌バンドを使用して、固定することが多いようです。顔に白布をかけ、シーツで体を包んだら完成です。

エンゼルケアは今や介護士にとっても必要な技術!?

エンゼルケアを行うのに資格は必要ありませんが、実際に行うとなるとさまざまな手順をクリアしていくことになります。施設の方針によっては介護士にエンゼルケアを任せるところもあるでしょう。しかしながらエンゼルケアは全くの未経験の人がいきなりできるものではありません。また所々で医療行為が加わってくることもあり、介護士のみで行うのは本来望ましいことではないでしょう。そもそも医師の死亡診断がなければエンゼルケアを実施できないという制約もあります。
エンゼルケアには2つの大きな目的があります。1つ目は亡くなった方をきれいな状態にしてお見送りをすること、そしてもう1つはこれまでその人のケアに関わってきた介護士や看護師が、最期のケアを行うことで気持ちを整えることです。エンゼルケアには遺族の方の思いだけでなく、これまでケアを担ってきた職員の思いへの配慮も含まれています。介護士だけでエンゼルケアを行う場合、今回紹介した手順をすべて行うというよりは全身の清拭や寝衣への更衣だけを行うことが多いでしょう。完璧なケアを行いたくともできないことがあるかもしれません。しかしながらその人との生前の関わりを思い出しながら心を込めて行うことで、たとえ手技としては十分でなくとも、本来の目的は十分に達したといえるエンゼルケアが行えるのではないでしょうか。