他業種の大手会社が介護サービスへ参入する事例が増えています。2015年は損保ジャパン日本興亜ホールディングスがワタミの介護部門を買収、2016年からは電機メーカーのソニーも介護事業に乗り出しています。2025年に市場規模が15兆円に及ぶとも言われている介護市場の成長性に惹かれているのでしょうか。
しかし、3年ごとに改正される介護保険制度や、高い離職率、慢性的な人材不足など、参入したは良いものの一筋縄で経営を安定させることは難しいはずです。それは資本力とブランド力のある大手の会社と言えども例外ではありません。

NTTグループにおける社会福祉事業を担うテルウェル東日本株式会社では、介護保険制度が開始されて間もない頃から介護サービスの提供をしています。
現在、介護事業部には従業員700名が在籍しています。展開するどこの介護事業所でサービスを受けても高品質な内容が提供されるように、「スタッフの育成と自律化」に力を注いでいます。そんなテルウェル東日本の介護事業ですが、過去には従業員の不満や育成が行き届かない部分があり介護業界ならではの問題に直面したことがあるのだといいます。テルウェル東日本がその時どのように問題を解決していったのか、そしてそれを経た現在、働いている介護事業に関わる従業員にとって、どのような環境を提供されているのか取材しました。
今回の取材には介護事業部のサービス管理担当課長 木下さんと、介護支援専門員(ケアマネジャー)のSV職に就かれている緑川さんにお応え頂きました。

--NTTグループとして高齢化社会に向けて社会貢献事業を

-- テルウェル東日本ではどんなサービス展開をされているのですか?
木下さん:当社は昭和27年に財団法人電気通信共済会として発足し、NTTグループ社員の福利厚生業務を中心にNTTグループの業務運営を支えてきた会社です。平成13年には、電気通信共済会の収益事業を継承し、テルウェル東日本株式会社として発足しました。

介護事業は、テルウェル東日本の中では一つの事業ですが、NTTグループ各社も注目している事業ですので、連携しながら、今後も力を注いでいく事業です。

介護事業のサービスは、訪問介護、居宅介護支援、デイサービス、サービス付高齢者向け住宅、地域包括支援センター、グループホームと幅広く展開しています。現在、首都圏だけでなく、東北、北海道にもセンターを構えて事業を行っています。

--NTTグループであるテルウェル東日本が介護サービスに詳しいイメージはないですがどのように立ち上げていったのですか?
木下さん:平成13年の介護事業の立上げ当初は、テルウェル東日本には介護事業に詳しい人はいなかったので、新規で採用した介護専門スタッフと管理部門スタッフが手探りで、学びながら事業を開始したのが始まりです。
平成15年には、介護事業を拡大していくために訪問介護や居宅介護支援のセンターを一気に拡大し、社内から介護事業以外の社員も集めて、営業活動を展開しました。
会社もヘルパー2級の資格取得を社員に推奨し、多くの社員がヘルパー2級の資格を取得しました。私もそのときに取得しましたね。

当時、お客様の数はかなり伸びていきましたが、売上の伸び以上に、コストが大幅にかかっていましたので、経営としてはかなり厳しい状況が続いていました。

平成18年から数年にかけて、介護事業の収支改善や処遇の見直しを図るため、全スタッフの意識改革や社内制度の見直しなど大幅な改善を行い、当社の介護事業におけるさまざまな基準を見直し、テルウェル介護事業の基礎を作り上げていきました。

--かつてのスタッフの不満、その原因は?「テルウェル基準」を作った理由

--なぜスタッフに不満がたまってしまったのでしょうか?
木下さん
介護事業を開始してから数年間は特に経営の厳しい状況が続いていましたので、管理スタッフも現場スタッフも少し疲弊しているところがありました。そういった中で、管理側と現場側の介護に対する思いに少し違いが生じていたことによって、スタッフに不満がたまってしまったと思っています。
そういった気持ちのすれ違いを無くすために、介護事業部の責任者と現場の責任者が本音で対話をしながら、サービス品質の向上と維持や収支の考え方について議論を重ねていきました。その議論や経験の中でテルウェルの介護事業のあり方を作り上げていき、現在の「テルウェル基準」につながっていると思っています。

--テルウェル基準を作った理由はなんでしょうか?
木下さん:テルウェル基準というのは、当社の介護事業のサービス品質基準や研修制度のことを総称した言葉ですが、介護サービスはその人の経験や育ってきた環境によってサービス品質にバラつきが出やすい仕事です。私たちは、そのバラつきをできる限り少なくしなければならないと思っています。テルウェル基準では、「誰が提供しても同じサービスを提供する」ということを重要な考え方の一つにしています。

例えば、経験の浅いヘルパーさんですと、お客様さんに頼まれると、保険内のサービスではなくてもつい親切心でサービスとは関係の無いことをしてしまう場面があるかもしれません。それはそのお客様には喜ばれますが、そのような行動をした場合には、最終的にはお客様にもチームのスタッフにも迷惑がかかってしまいます。
当たり前のことですが、サービスをする上での心構えから法令、収支における考え方などの基準を明確にして、スタッフに浸透するように研修をしたり、ミーティングの中で話しをしたりしています。


--現在、スタッフの満足度は上がりましたか?
木下さん:事業を始めた当初と比較するとかなり改善されています。それと、採用時にきちんとテルウェルの考え方や、テルウェル基準なども含めてどのようにサービスの提供しているのかを伝え、それを理解して頂けた方に働いて頂いています。
やはり自分たちの中でもサービスの基準や考え方が明確になっているので、採用する時にも正確に伝えることができるようになり、スタッフが入社した後のミスマッチが少なくなったのだと思います。

--今後、どうすればヘルパー・ケアマネさんの労働環境がより改善されますか?
緑川さん:働く職場環境の良し悪しについては職場内の人間関係が大きく影響します。
介護業界の離職の原因はやはり人間関係に起因するものが多く、それはテルウェルでも引き続き課題です。
特定の誰かと「仕事の価値観が合わない」「センターの誰かと気が合わない」などの相談が私にも上がってくることがあります。
人間関係のトラブル以外で離職する人もいますが、掘り下げて聞いていくと、実は人間関係の問題を別の理由に置き換えていただけの場合も多いです。
介護業界では、一緒に働く人と合わなくて辞めてしまうことも多いのですが、そういった人間関係のトラブルで辞めてしまうのはもったいないじゃないですか。だから、テルウェルではそういった人間関係の悩みも大切な問題として、SV職やエリアマネージャーが相談役として解決に向かって話合うようにしています。

 

--現場からの悩み・質問に応えるSVは「よろず相談所」

--SVはどのようなお仕事をされていますか?
緑川さん:現場がテルウェル基準どおりにサービスが提供できているか管理し、テルウェル基準でカバーできていない、判断に迷う状況で相談役となったりします。特にそれぞれの地域で居宅介護支援事業所にいるケアマネジャーに対応する私達の役職は、介護保険制度の改正が頻繁に行われるので、制度や行政対応について詳しく知っていないといけないです。
加算取得の注意点や帳票の書き方、介護保険制度以外のことでも、採用に関すること、人間関係に関することが電話やFAXでなんでも相談にきますので、「よろず相談所」みたいな役割ですね。未経験でケアマネジャーに就いた人については、慣れるまで現場と私が協力しながら育成を行うことも多いです。
こうして、各センターにおける個別な事情をSVが相談役として受けることで、現場スタッフの安心感に繋がっていると思います。
あとは、研修の講師ですね。テルウェルでは研修が多く、SVが中心となって研修を構成しています。

--研修ではどのようなことを行っているのでしょうか?
緑川さん:新任研修や、職種別研修、あとは入社半年から2・3年のスタッフへのフォローアップ研修や全体会議などさまざまな研修があります。
新人研修の中では、接遇だけでなくコミュニケーションやチームワークの考え方についても教えています。お客様やスタッフ間の人間関係のトラブルでよくあるケーススタディを教えています。
どんな言葉・対応でトラブルが起きやすいか事前に学んでトラブルを極力減らして、起こった時の対処や心構えを理解しておいてもらいます。
また、全体会議・全体研修が2回あり、スタッフにアンケートをとってどんな研修をしたいか聞いています。
アンケート結果からユニークな研修を開催したことがあります。例えば、東日本大震災時に仙台の居宅介護支援事業所・地域包括支援センターがどのような活動をしてきたかを共有する研修がありました。
災害時に、高齢者に対してどのようなケアが求められるか、行政や地域とどのような連携ができるのか?リアルな体験を通じて会社全体でフィードバックしましたね。
研修はテルウェル基準の内容を確認するためでもあり、また、スタッフのサービスの質を高め、情報を共有する場でもあります。積極的に研修を取り入れているのはそういった理由からですね。そこで、テルウェル基準の再確認や場合によっては修正される事もあります。

--ヘルパーが「一生働きたい」と思える環境を整備

--テルウェルは働いているヘルパーさんにとってはどんな環境ですか?
木下さん:働いているスタッフには、一生テルウェルで働きたいと思ってもらえるような会社にしたいという想いですね。介護スタッフが働く環境に関してももっと整備していく必要があると考えています。
この業界では介護スタッフの給与が低いことが1つ問題になっていますが、我々はサービスの質だけでなく給与面でも介護業界水準以上を維持し続けようしています。
ただ、求人サイトで見て数字で横並びされるとわかりづらいですが、実際には手当や制度が充実していますので待遇は良い方だと思います。
また、先に緑川SVが説明した通り、SVやエリアマネージャーが相談役としてサポートしたり、研修でケーススタディを学ぶことで、スタッフが長くに渡って働ける環境を作っています。

--成果を出した人、頑張っている人をちゃんと評価したい

木下さん:現在の評価制度は、基本的には数字で評価する仕組みになっています。しかし数字だけでは図れない部分がありますので、そういった部分については、現場指導をしているエリアマネージャーの意見を基に評価をする仕組みとなっています。
そうすることで、現場のスタッフが適正に評価され、不公平感無く働くことができお客様にも良いサービスを提供できると考えています。

介護事業は、数字や収支の話をすることが良くないことのようなイメージがあるかもしれませんが、赤字ではスタッフの処遇改善はおろか事業継続すら困難になってしまいます。
テルウェルでは、現場の責任者には、どれだけの人数で、どれくらいのサービスを提供するといくらの利益がでるのかという話を研修の場でもしていますので、現場には浸透しています。 


--テルウェルではどのような方を採用されているのですか?
木下さん:未経験者でも、経験者でもどちらも採用していますね。採用する際に面接をさせて頂きますが、流暢に今までの経歴を話す方もいらっしゃいますが、話が上手いのは特技としてはとても良いのですが、そういうことよりも今まで積上げてきた事実を大事にしています。未経験者であれば、素直に学びたいという気持ちが大事だと考えています。
このお仕事はお客様が自分より人生経験豊かな年配の方になりますので、敬いの心を持って接することができるかどうかが大切です。

テルウェルとしては今後、お客様のことはもちろん、中で働く介護士にとっても「一生テルウェル」と思ってもらえるような、サービス作り、労働環境作りに磨きをかけていきます。今後も、事業を拡大していきたいのですが、そのためにはサービスを提供する人材が欠かせないです。
テルウェルの考え方を理解し、質の高いサービスを提供する気持ちがある介護士さん、ヘルパーさんがどんどん応募してくれるように管理部としても、介護士の方が働きやすい環境を考え彼らが定着できるように改善を重ねていきます。
NTTグループとして 、社会に貢献できるように高いサービスの質と従業員にとっても働きやすい環境を構築することで地域のお客様に愛される事業者になりたいですね。