要介護者の旅行を支えるトラベルヘルパー
非常勤の介護仕事をしながら、月に1回程トラベルヘルパーとして高齢者を介護旅行へご案内。そんな働き方をする介護士が増えています。介護旅行とは、身体的に不自由な方、特に高齢の方へ提供される旅行サービスです。

要介護高齢者に最適化された旅行ツアーのプランニングや当日の移動・食事などの介助を行う「トラベルヘルパー」は、外出支援専門員とも呼ばれ、「介護」と「旅行」双方の業務知識を持つ介護旅行のプロフェッショナルです。 今回は介護旅行サービスをゼロから創り上げ、20年以上に渡って提供し続けているあ・える倶楽部の代表であり、日本トラベルヘルパー協会の理事長でもある篠塚恭一さんにインタビューをしました。

介護旅行のサービス内容や提供を始めた経緯、また、どんな方がトラベルヘルパーとして働き、具体的にどのようなお仕事をされているのか聞いてみました。

 

介護旅行サービスとは?

-- あ・える倶楽部ではどんな事業をされているのですか?

介護旅行サービスを提供しています。提供し始めてもう20年超ですね。 介護旅行というのは身体的に不自由な、特に高齢者の方を専門の「トラベルヘルパー」と呼ばれる人たちが旅行のプランニングから当日のエスコートまで行う介助サービスです。 観光旅行だけでなく、故郷へ帰ったり、お墓参り、遠場だけなく近場への外出も含めて、個人のニーズに合わせて幅広い介護旅行を提供しています。

-- お客様は何を目的に介護旅行サービスを利用するのですか?

お客様によって様々ですね。「温泉に入りたい」「観光旅行したい」「孫に会いたい」など、身体が不自由な方でも、その方のニーズに合ったサービスをプランニングします。 中には、親戚一同に挨拶をするため、全国行脚する方もいます。

-- 提供されるサービスは具体的にどのような内容になりますか?

お客様の目的に応じて最適な旅の「プラン設計」と当日の「介助」をすることで、身体の不自由な方、高齢者の方でも楽しめる旅行体験を提供します。お客様の状態によっては、旅行へ行くことを目指してリハビリプランの提供をすることもあります。 通常の旅行プランと違って、高齢者に適したプランを設計しているので、例えば、介護タクシーの手配や、車椅子で乗車可能な新幹線・飛行機の予約、移動しやすいルート設計などを行います。当日は、トラベルヘルパーが同行して、身体的な負担を減らして、旅行が楽しめるようなサポートをします。

 

介護旅行サービスの価値

-- 介護旅行はお客様にどんな価値を提供しているのですか?

当然、旅行そのものを楽しんでもらうということもありますが、旅行を通じて生きることに前向きになってもらう、目標を持って頂けるようなきっかけを提供していることが介護旅行の価値だと考えています。 目標はお客様によって、故郷に帰ること、親戚に会うこと、お墓参りすることと、様々です。

お客様の中には普段はなかなか外出する事が困難で「寝たきり」の高齢者も少なくありません。リハビリ活動を行えば、身体機能の改善・維持は可能ですが、目標がなければリハビリを試みようとはしません。「寝たきり」となっている高齢者が多い理由の1つに、身体を動かすこと、外の世界と接触することに価値を見いだせない、外に出るきっかけがないことがあると思います。

介護旅行を通じて実際に身体を動かすと、「今度はあそこに言ってみたい」「家族に会いに行きたい」と目標を自ら設定して、人生に前向きになる方が多いのです。 初めは目標が無く、なんとなく介護旅行を始めた方でも、旅行自体が目的になったり、旅行で何か目的を達成しようとしたりします。そのきっかけを提供していることに大きな価値が有るのではないかと思います。

介護旅行サービスが生まれた背景

-- サービスを始められたきっかけはなんでしょうか?

元々は一般の旅行会社に勤めていました。当時、旅行会社を利用するお客様は時間とお金の余裕がある人が多かったです。例えば、定年退職を迎えたタイミングで記念に旅行する方ですね。 実際、私がサービスを提供していたお客様の多くは、女性は子育てを終えた50代の方、男性は定年退職をした方です。それが段々と年をとっていき1人では旅行ができない状態へとなっていくのを目の当たりにしました。その中で、ふと「介護が必要な状態になってもサービスを提供し続けられないか」と考えました。それがきっかけと言えばそうかもしれません。

-- 介護旅行のアイディアはどうやって実現していったのですか?介護の知識は元々あったのですか?

当時はトラベルヘルパーなんてサービスは存在しませんでしたが、身体に障害を持つ方へのサポートをして旅行を提供しているボランティア団体はありました。そこで、そのボランティアに参加し、どのようなサービスを提供しているのか学びにいきました。 同じ車椅子ユーザーである高齢者の方へも同じように旅行をサポートするサービスが提供できないか考え、「高齢者だっだらどのような介助が必要だろう?」と考えながら、介護旅行サービスのアイディアを具体化してきましたね。

トラベルヘルパーの仕事内容・求められる能力

-- 現在、トラベルヘルパーはどんな方が働いているのですか?

現職の介護職の人が3割ですね。登録制なので、介護職を非常勤で働かれている人が、月に1回程度のお仕事としてダブルワークとして働いているケースが多いです。 後は、旅行会社の人や、PT/OTとして勤めているか人が1割ずつですかね。 残りの半分は主婦や一般企業に勤めていた方です。50代の主婦の方が多く在籍していて、仕事をリタイアした後にトラベルヘルパーとして地域で介護をしながら、この仕事に勤めている方もいます。

-- トラベルヘルパーを始める方のきっかけは何でしょうか?

介護のお仕事に就いていた人は、職場で提供しているサービス内容に不満を持っていたり、制度の枠組みでできることに限界を感じて、トラベルヘルパーを始める方が多いですね。だから、自分の提供しているサービスは「これでいいのか?」と自問自答する人が多いです。 あと共通しているのは、人の喜ぶ姿を見たいという気持ちが強いことです。

-- トラベルヘルパーさんのお仕事はどういった内容になりますか?

旅行のスケジュールや利用する交通、宿泊する宿などをプランニングするコーディネートのお仕事と、実際に旅行へ同行して介護を行うエスコートのお仕事があります。 コーディネーターはデザイナーさんみたいな仕事ですね。お客様の身体的な負担を考えて、目的までの道のり、エレベーターの場所や、雨になった場合のタクシーの乗車位置、車椅子を利用する方も楽しめる旅行プランを考慮し、その人に合ったデザインをします。当然、本人が楽しむための旅行ですので、事前の打ち合わせを行い、本人の希望に可能な限り応じた旅行プランを提供します。

-- 当日の介護はどのようなことをするのでしょうか?

旅行中の移動や、食事、入浴、排せつ等の介助全般ですね。 旅行は移動が多いので、基本的な移動補助も多いです。車椅子に乗って段差や砂利道を通ることは車いすを利用する方にとって想像以上に負担がかかりますので、なるべく負担が少なくなるように、安全・快適な補助を行います。また、お客様と長い時間過ごすことになるので、心から旅を楽しめるように、会話を弾ませながらも、前に出すぎないように適度なコミュニケーションをとります。 お客様の介護度によってサービス内容は異なりますが、いずれにせよ基本的な介護技術が必要で、あとは、海外に同行することもありますので、交通機関の乱れや天候などによる突発的なトラブルに対応していくこともあります。

-- どんな方がトラベルヘルパーさんの適性がありますか?

情緒的なサービスが求められるので、お客様の気持ちをちゃんと考えてプランニングして、動ける人です。 旅行をデザインする能力が求められますね。当日の旅行で何が障害になり、どうすればスムーズな旅ができるか想像する力も求められます。あとは、お客様が喜ぶことを提供したいという気持ちを持った人に向いていると思います。

-- トラベルヘルパーさんの報酬はどの程度なのでしょうか?

介護水準と比較すると、若干トラベルヘルパーさんの方が良いですね。 基本日当は9,000円で、資格によって上がるようになっています。さらに職務手当として要介護度によって1,000円から5,000円の加算がありますので平均は12,000~13,000円くらいで交通費も支給されます。あと、旅行なので美味しい食事も付いてきて、観光もできますね。 コーディネーターは案件1件ごとに決めた報酬をお支払いしています。

 

 

保険外サービスが必要な理由

-- 介護旅行は介護保険外のサービスですか?

はい、そうですね。お客様の自己負担で提供される保険外のサービスです。 今後は、介護旅行のような保険外サービスがどんどん普及していく必要があると思います。

-- なぜ保険外サービスが必要なのでしょうか?

既存の保険サービスは、限られた財源の中で「医療」や「介護」、主に病気の治療や身体機能の改善・維持を目的として提供されていますが、それだけでは地域包括ケアシステム(※重度な要介護状態でも住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けるためのシステム)の仕組みとして足りないと考えています。

-- 医療や介護だけでは足りないというのはなぜでしょうか?

医療や介護は病気を直す、命を永らえるために提供されています。しかし、身体機能だけをサポートするだけでは、人は幸せに生きることができません。人が幸せに生きるためには高齢化して弱くなった「心をケア」することが必要だと考えています。

心がおかしくなるきっかけは閉じこもってしまっていることから起きることが多いです。昔は子供がいたり、夫婦で過ごしていたことで、コミュニケーションをとることができましたが、今は違います。 だから、心のケアをするために「社会性」を提供するサービスが必要です。

-- 社会性の提供とは具体的にどのようなことでしょうか?

「目的」や「社会との関わり」を提供することですね。それらがないと、なにかのため、誰かのために生きることをしなくなり、ライフスタイルが乱れていきます。例えば夫婦であれば、双方のために料理をすることが当たり前ですが、単身であれば自分だけのためにわざわざ朝起きてお味噌汁を作ることはしませんね。楽に済ませようとコンビニ生活が増えるでしょう。 誰かのため、何かのために生きることでそれに向けて努力したり、生活を磨く気力が出ます。これは、病気や心身の衰えの予防としても効果的です。

大事なのは、社会性を保つ仕組みを用意して、「医療」「介護」が必要な状態を作らないように防ぐことですね。介護旅行にはそういった予防としての利点があります。

 

予防としての介護旅行

-- 旅行に予防、リハビリの効果があるのですか?

旅は最高のリハビリになると思います。身体的なリハビリという意味もありますが、それ以上に心のリハビリになります。

それまで落ち込みがちだった高齢者の方が、旅行に行った後は目が輝いて、「もっとこんな所に行きたい」「海外旅行に行きたい」など自分の要望を言うようになります。そして、身体的なリハビリを積極的に行うきっかけにもなります。

 

-- 高齢者の方に心のリハビリがなぜ必要なのでしょうか?

年をとって、今まで出来ていたことができなくなると、気持ちが消極的になったり、心が折れてしまうことがあります。多くの人がなるべく長く生きたいとは思っていますが、寝たきりで生き続けた訳ではありません。

本当はもっとこうしたい、なにかしたいという感情を持っています。 ですが、認知症のように、自分で意思表現ができない状態になってしまったり、介護施設など自分の意思を表明しづらい環境にいると気持ちが弱って消極的な判断をしがちになります。 心のリハビリによって積極的な気持ちを生み出し、人生に前向きになることができます。

-- 実際にどんな風にお客様の心の変化が起きるのでしょうか?

例えば要介護度3のお客様は、最初はお墓参りで九州へ介護旅行へでかけたのですが、段々と気持ちが前向きになり、最初の旅行が終わると今度は別の親戚に会うために北海道へ行くことになりました。

その後、四国や、スカイツリーへの観光も、本人の希望で実現しました。初めにお墓参りした時とは明らかに表情が変化し、次の「目標」を持って自己実現していくようになり、抑えていた願望を表現できるようになったようです。

-- 既存の介護サービスではそういった要望に応えられていないでしょうか?

応えられていないと思います。保険内のサービスでは、という意味ですが。既に介護保険は縮小の流れとなっています。来年の4月からは新総合事業が完全移行となり、要支援1、2の方と、要介護1、2の方へ提供されるサービス主体が一部自治体へ変更されます。 今後も保険内で提供できるサービスは限られてくるでしょう。そんな状態の中で、個別性の高いお客様のニーズに応えていくのは、厳しいと思います。保険外のサービスでないと、お客様の多様なニーズに応えていくのは出来ないと思いますね。

 

介護旅行を普及させ寝たきりの高齢者を減らす

-- 最期に今後の展望を聞かせてください

世界では「寝たきり」の高齢者がほとんどいない社会があります。日本では同じ年齢の高齢者が寝たきりになっているにも関わらずです。 本当は、高齢になったとしても生きがいをもって充実した生活をおくることは可能なのです。それにも関わらず、既存の保険制度内では個々の高齢者のニーズに柔軟に対応することができません。

今後益々、介護旅行を含め、様々な保険外サービスを普及させることで、既存の介護事業所が応えきれていないニーズを解決し、介護の必要な高齢な方も充実した人生を送るための機会を提供していきたいですね。

 

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