介護職員の人手不足、職員が定着しないために人が育たない、好景気の他業種への人材流出など、介護業界が直面する人材の課題は、職員の健康や質がサービスの質に直結する介護業界にとって、最大の課題となっています。
今回は「人を語らずして介護を語るな」の著者である菊地 雅洋氏に「人材と業界の課題」について聞きました。

 

深刻な人手不足に直面する介護業界

厚労省が明らかにしている介護職員の将来推計(25年度推計)によると、現状の増員ペースのままでは、2025年度に38万人の介護職員が不足するとしている。 人手不足感が強まる業界の関係者は、この数字が事業運営を危うくする最大のリスクだと考えている。 同時にそれは制度あれどもサービスなし、という状況を創りだすものであり、必要なサービスを受けることができず、 最低限の暮らしの質さえ保つことができず、ただ単に息をするだけの悲惨な暮らしの中で死んでいくたくさんの高齢者を生むという意味である。

 

介護報酬引き下げの功罪

国の介護人材の確保策の一つは、処遇改善加算によって介護職員に支払う給与をアップさせることだ。 この加算を算定している事業所では確かに介護職員の給与は加算以前よりも上がっているだろう。 しかし、これによって介護職員が大幅に増えることはない。なぜなら介護給付費の改定は、処遇改善加算をアップしているのと同時に、 基本サービス費を大幅に引き下げ、事業者の経営基盤を脆弱にさせているという実態がある。

例えば特養ならば、27年度の介護報酬は前年度より大幅に引き下げられ、年額にして600万円~800万円程度の収入減になっている施設が多く、 これにより単年度赤字決済となる法人・施設は大幅に増えている。その中で介護職員に支払う給与だけがアップしても、 他職種の給与が削られ、施設で行っていた業務の一部がアウトソーシングされていく現状を見て、この職業に将来を見いだせないと不安を抱える職員が増えている。たとえ一時的に給料が上がっても、将来的にそれがもっと上がっていく保証もなく、そもそも事業経営自体に不安要素が増大している現状をみて、この職業を続けて大丈夫かというささやきが聞こえてくる。

世間一般を見渡しても、社会保障費の抑制によって削られていく介護給付費の動向を見て、介護サービスという職業の将来性に不安を持つ人が増えており、 そのことが介護の専門資格を取得することや、介護の仕事に就こうという動機付けを著しく削いでいるのが現状である。架けた梯子を外すことが常態化する職業を、 今後どれだけの人が選ぶというのだろう。

 

介護報酬の削減は介護経営を目指す人材の芽を摘む

例えば、大幅に報酬が下げられて、介護予防対象者が地域支援事業に移行させられる通所介護については、小規模事業者を中心に閉鎖が相次いでいる。 国の乱暴な理屈から言えば、一部の事業者がつぶれても、そこで働いている介護職員が、別の介護事業所に就業できれば問題ないし、むしろ事業者数が淘汰され、 スケールメリットの働く大きな規模の事業者で、効率運営することが人手不足対策にもなるということだろう。

しかし閉鎖された小規模事業所の介護職員は、他産業に就業する人が多い。それは介護事業経営自体に将来性を見いだせないからである。 特にスキルの高い人材は、今は介護職員として働いていても、将来的にはその経験を生かして、自分が介護事業所を経営したいという動機付けの人が多く、 それらに人は介護事業経営に不安しか与えない乱暴な介護報酬の削減が行われた現状を見て、この業界に見切りをつけていっている。

このように介護事業経営に魅力を削ぐ報酬減は、高校の進路指導にも影響を与え、介護福祉士養成校への進学を勧めない就職担当教員も増えており、 介護職に必要な数の確保につながる要素など存在しないのが現状だ。

 

慢性的な人手不足によりスキルの無い人材で溢れかえる

介護現場の慢性的な人手不足は、一方では職場を転々と渡り歩く人間を生んでいる。 そのことが介護サービスの質の低下とは関係のない問題ならよいが、実際には仕事ができない職員でも、次の職場を探すことに困らないという状態を生んでおり、 明らかに介護の仕事に従事すべきではない人格やスキルの人でも採用する職場はあるという状況を作っている。 たびたび報道される介護現場での信じがたい虐待が、このこととまったく関係がない訳がない。

 

社会保障費の削減による格差社会の加速

プライマリーバランスゼロ政策を実現する中で、社会保障費を徹底的に切り詰めて、財政の健全化を図るとしても、国民の暮らしは健全なものではなくなる。 むしろ、高齢期で社会の支援を必要とする時期に、国はその責任を放棄して、自己責任と自助努力を求めるばかりなのだから、 人としての最低限の暮らしを送るということさえできない人が増えるのがこの国の現実だ。

社会的な財の再分配機能をもつ社会保障費が削減されるのだから、現役世代に裕福になれなかったという負の遺産は、死ぬまで引き継がれ、格差社会はますます広がり深刻化するだろう。 そういう意味で、今必要なのは、社会保障は、社会のセーフティネットであると同時に、社会保障を充実させることによって景気も上がるという面に着目した政策転換ではないかと思うが、 近直の国政選挙でもそのことはまったく政策論争となっていない。この現実は実に嘆かわしいことである。

 

菊地 雅洋

菊地 雅洋プロフィール

北海道介護福祉道場・あかい花 代表、医療法人資生会・介護老人保健施設クリアコート千歳 事務次長など歴任
運営サイト:masaの介護福祉情報裏板
著書:「人を語らずして介護を語るな~masaの介護福祉情報裏板」「介護の詩(うた)~明日へつなぐ言葉」など