2020年には、認知症疾患者数が約300万人弱に増えると言われている認知症ですが、いまのところ認知症を患っている人への特効薬はありません。しかし、ケア方法についてはいろいろな手法が実証されはじめています。そのひとつが「回想法」です。この記事では回想法の内容や効果、実践方法などについてご紹介します。

(1)回想法とは

回想法とは

高齢者の認知症予防やうつ病、認知症を疾患している人の心理療法のひとつで、懐かしい物や昔の映像を見たり、昔の音楽を聴いたりしながら、昔のことを思い出しながら思い出を語り合うものです。

回想法の歴史

回想法は、1960年代にアメリカ合衆国の精神科医ロバート・バトラーが始めた心理療法で、当初は高齢者のうつ病の治療として行われていました。その後、回想法が高齢者の認知機能の維持・改善に効果があるということから、最近では、リハビリテーションのプログラムとして組み入れているところもあります。

(2)回想法の効果

回想法の効果

回想法は様々な効果を生み出します。

まず、昔のことを思い出すことで脳の活性化になり次の2つの効果が得られます。

  • 認知症の予防
  • 認知症の進行を抑制

また、回想法により懐かしい話をすることで情緒が安定し、

  • 心理的な問題の改善や解消
  • 自尊心の向上
  • 抑うつの改善や解消
  • 他人と関わる意欲を向上
  • 日常生活の満足度の向上

と多くの効果が期待できます。

メディアでも注目集まる「回想法」

回想法は、介護現場でも広がりを見せており、次のようにテレビで紹介されました。

「昔懐かしい楽しい記憶や、つらかった記憶もふだんは記憶の海の底にひっそり眠っています。しかしひとたび映像や古い写真、古いものを見て、一瞬にして昔に戻ることができます。昔の話を語る相手がいればなおのこと、楽しく時間を忘れることもできます。人は皆それぞれの思い出があり、時々それらを思い出すことで、人生も豊かになり、幸せな気持ちになることができます。回想法は、そういった懐かしい映像を見て、人と語り合うことで、充実した時間をもつことができます。昔を思い出し、人と語り合う時に、前頭前野の脳血流が増加することが分かっています。(国立長寿医療研究センター長 遠藤英俊氏)」

出典:NHKアーカイブス・https://www.nhk.or.jp/archives/kaisou/about/

(3)回想法 実践前の心構え

回想法は、単に“昔の話を聞いていればいい“というものではありません。事前にしっかり準備をしておかないと、効果を上げるどころか、高齢者との関係性を崩してしまう危険性もあります。回想法を実施する場合は、必ず、次にあげる4点の心構えをしっかり持ちましょう。

事前に“話すテーマ”と“NGのテーマ”を確認しておく

回想法を行う相手の出身や家族、仕事、趣味などの情報を集めておきます。なかには子供を亡くした、離婚をした、戦争で辛い経験をした、事業を失敗したなどあまり思い出したくない過去を持っている場合があります。

辛い過去などを話すことで話してである高齢者の尊厳を損なうことがあります。そういう内容はNGとなりますので、可能な限り、情報を集めて“話すテーマ“と”NGのテーマ“を確認していきましょう。

話を傾聴する

回想法は自ら話をすることに意義があります。インタビュー形式など質問形式で聞いていくのではなく、テーマに基づき高齢者自ら話をするようにして、支援者は傾聴し、共感、受容します。支援者は話を盛り上げようとして、高齢者に無理に聞いたり、高齢者の話に反対意見を述べることは絶対にNGです。

また、話の内容が明らかに間違っていたとしても、それを否定したり、訂正したりすると、高齢者が恥じずかしい思いをしたり、支援者への不信感を持ってしまうこともあるので、注意が必要です。

参加するメンバーや参加者の体調、性格なども把握しておく

参加するメンバーによっては、「あの人には聞いてほしくない」といった関係性をもっている場合があります。また、その日の体調が思わしくないと「あまり話したくない気分」で参加することで、場をしらけさせてしまうことがあります。

グループでの回想法を行う場合は、参加する高齢者のメンバーや参加者のその日の体調、性格などもはあくしておくことが必要です。

雑学を身につけておく

利き手である支援者は、浅く、広い雑学の知識が必要です。例えば、過去に流行した音楽や映画、スター芸能人、活躍したスポーツ選手、大きな事件、地方の風習などです。高齢者の話の全てを知り尽くすだけの知識を身につけるのは不可能ですが、参加者の青春時代の年代や出身地などは、出来るだけ時代ごとの出来事など多くの雑学を身につけておきましょう。

(4)回想法の具体的な方法

回想法を行うための具体的な方法や使う道具についてご紹介します。

個別回想法

個別回想法は、支援者と高齢者の1対1で行います。個別対応なので、当然、高齢者の個別性を大切にして、その高齢者が歩んできた人生のなかの、幼少期や学生時代、青春時代などの思い出を回想してもらいます。

回想方法は、テーマに合わせた時期の写真や道具を見せて、当時のことを思い出してもらい、当時の出来事や楽しかった思い出などを話してもらいます。支援者は、高齢者の話をただ聞き流すのではなく、話を傾聴しながら、楽しいエピソードを自然に引き出せるように誘導する能力が必要です。

グループ回想法

グループの回想法は、高齢者は通常10人以下で、支援者は最低でもリーダーのファシリテーターとその補助役の2名は必要です。

事前に支援者同士で参加する高齢者の情報や話題するテーマ、NGのテーマなどを確認しておきます。できるだけ参加する高齢者の共通する事項を中心にテーマを決めます。参加者には、テーマに合った写真や道具を見せて、当時のことで思い出したことを話します。

例えば、子どもの頃に流行った遊び方や流行った歌などをテーマにして当時のことを回想し、それぞれの思いを話していきます。

グループの場合、参加する高齢者同士で話が盛り上がるというメリットがあるものの、ずっと話をしてしまう人、人の話を奪ってしまう人、話し出すタイミングがつかめない人などがでないように、ファシリテーターは参加する全員が話をできるように仕切らなければいけないので、ファシリテーターには経験や技術が求められます。

回想法で使う道具

回想法では、当時のことを思い出しやすくするためのアイテムとして、昔の写真や昔遊んでいた道具、昔の曲が入ったCD、昔の映画などのDVD、古い家電などを使います。

(5)回想法でよく使われるテーマ一覧

次に、回想法でよく使われるテーマをご紹介しますので、参考にしてみてください。

  • 産まれたときに住んでいたところの話題(特産品、よく食べた物、海、雪あそびなど)
  • 小学校の時、友達と遊んだ遊び方(鬼ごっこ、お手玉など)
  • 中学校の時の部活や遊び方(テニス部、合唱部などの練習や大会)
  • 高校時代の修学旅行、担任の先生、仲の良かった友達
  • 仕事の内容、同僚、上司
  • 若い時に夢中になった趣味、特技、好きだったスポーツ、流行った歌や歌手
  • 結婚、子育てなど(ただし、参加する高齢者で未婚の方がいる場合はNG)

(6)回想法は本人のQOL(生活の質)向上に強く結びつく

高齢者は、記憶の低下、体力や聴力の低下などで不安を抱えています。また、仕事を退職したり子供が巣立つことで、社会的な存在意義を喪失し、気力の低下や自信を無くしかけています。さらに、急激なIT化など社会の変化に戸惑うことが増えてきます。

回想法は、楽しかった頃、良かった頃、仕事や子育てなど充実していた頃を思い出すことで、不安を解消できたり、自尊心を取り戻すことができ、情緒が安定します。情緒が安定することで、抑うつの改善や他人との交流に前向きになったり、生活へのハリが出てきます。

さらに、回想法を実施した結果から、高齢者が自信を持てること、好きなことなどをケアプランに組み込むことで、高齢者のQOLの向上に繋がります。

認知症やうつ病を患っている人の心理療法として、また、認知症予防のためにも、ぜひ、回想法を実施して高齢者のQOLを向上させましょう。