超高齢社会が進む中、介護職の需要は高まる一方です。そんな状況を鑑みて、介護職への転職を検討している方は多いのではないでしょうか。そのような方にぜひおすすめしたいのが、介護職員初任者研修の資格取得です。

数ある介護資格の中でももっとも敷居が低いにも係わらず、得られるメリットは盛りだくさん。なんと言っても「手に職」を実現できるチャンス!

この記事では、何かと「オイシイ」介護職員初任者研修の資格について詳しく解説します。「転職のために資格を取得するなんて大袈裟な…」と考えている方も、考え方が一変するはずですよ。

介護職員初任者研修とは?

介護職にはさまざまな職種があります。その中でも、特に介護士(介護職員)が担当する業務として代表的なのが、「生活援助」と「身体介護」です。

「生活援助」とは、掃除や洗濯・料理など、身の回りのお世話のことを指します。そして「身体介護」は、食事や入浴、排泄の介助など、直接利用者様の身体に触れて行う援助のことを指します。この「身体介護」については、資格を保有していないと行うことができないこともあります。その資格のひとつが、今回ご紹介する「介護職員初任者研修」です。

介護職員初任者研修とは、

  • 介護職の基本の知識・技術を習得できる研修
  • 介護職でまずはじめに取得したい資格
  • 資格保持で転職先の幅が広がるメリットがある
  • 資格をもっていると身体介護ができる
  • 認知症ケアの講義が新設された

介護職員初任者研修ってなんの研修なの?

「研修」という名称ですが、厳密に言うと、介護職員初任者研修は研修であり、資格でもあります。数ある介護の資格の中でも、もっとも取得しやすい介護ビギナー向けの資格であり、この資格を取得することで「身体介護」ができるようになります。

介護職員初任者研修は厚生労働省により、『在宅・施設を問わず、介護職として働く上で基本となる知識・技術を習得する研修』と定義付けられています。

「基本となる知識・技術」とあるように研修では、介護の基本知識(理念や技術)について130時間(10項目)かけて学びます。研修修了後に筆記の修了試験を受け、合格することで介護職員初任者研修の資格を取得できます。

なお、介護職員初任者研修は国家資格ではなく厚生労働省認定の公的資格となります。そのため、研修や試験を実施しているのは都道府県または都道府県知事指定の介護職員初任者研修を開講している民間団体・公益法人のスクールや講座に限られています。

介護職員初任者研修のカリキュラムを受講しているイメージ

昔のホームヘルパー2級から変わったこと

介護職員初任者研修は、2012年度に廃止された公的資格「訪問介護員養成研修2級課程(ホームヘルパー2級)」に代わる形で2013年度から新しく導入された資格です。

元々ホームヘルパー2級は、主に訪問介護における生活援助や身体介護を行うために制定されていた資格です。

ホームヘルパー2級を含む旧資格制度廃止の大きな背景には、「介護福祉士」資格取得までのキャリアパスが複雑で分かりにくいことにありました。そこでキャリアパスの一本化を目指して生まれたのが、介護職員初任者研修をはじめとした新資格制度です。

介護職員初任者研修のカリキュラムや研修時間は従来のホームヘルパー2級課程とほぼ同等ですが、下記のような変更点もあります。

訪問介護に傾斜した研修内容から、介護業務全般へ対応する研修内容へ

ホームヘルパー2級が訪問介護員を養成するための資格だったことに対し、介護職員初任者研修は施設介護なども含む介護業務全般に活かせる資格となりました。これにより、在宅介護のみならず、介護施設での介護業務にも対応する幅のある資格となりました。

修了試験の実施

ホームヘルパー2級は全過程を修了すれば資格を取得できましたが、介護職員初任者研修には全過程終了時に約1時間の修了試験(筆記試験)が導入されました。そのため、合格しなければ資格は取得できません。

30時間の「実習」が廃止

ホームヘルパー2級ではデイサービス・訪問介護施設などにおける30時間の実習がありましたが、介護職員初任者研修では廃止されました。そのためカリキュラムはホームヘルパー2級と変わらず130時間のままですが、新たに学ぶ講義が増えました。

なお、スクールによっては任意で実習を実施しているところもあるので、受講の際には確認しておくようにしましょう。

時代のニーズに即した講義が新設

介護職員初任者研修には『認知症の理解』『医療との連携』が受講科目に追加されほか、『こころとからだのしくみと生活支援技術』として演習を通して介護技術を学ぶ時間が大幅に追加されました。

介護職の転職にどう役立つの?

介護職員初任者研修の資格を取得することで、まず身体介護等の業務に携わることができるようになります。たんの吸引など別途講習会等の受講を必要とする業務内容はありますが、一通りの介護業務を行うことはできるようになるでしょう。

これが何を意味するかというと、転職先の選択肢が広がり、採用される確率もグンとアップします。事実、求人数についても、資格があった方が資格なしよりも多いです。

介護士が食事を介助している様子

介護職員初任者研修を取得するメリット

介護職員初任者研修の資格を取得すると転職の際に有利になることは上記で触れました。そのほかのメリットを見ていきましょう。

無資格者よりも給与が高くなる

介護職員初任者研修は介護に関する最低限の知識や技術を持っているという証となるため、多くの介護施設では資格保有者の給与は増減することもあるでしょう。これはパートや派遣でも同様です。

キャリアアップへの第一歩となる

介護職員初任者研修の資格を取得すると国家資格である「介護福祉士」の資格取得をスムーズに目指せるようになります。介護福祉士の資格を取得するためには「実務者研修」の受講が必須ですが、介護職員初任者研修の資格を持っている場合、450時間の受講時間が130時間免除されます。
将来的に介護福祉士資格を目指す方にとっては介護職員初任者研修の資格取得がキャリアアップへの第一歩となります。

身近な人の介護にも役立つ

今は関係なくても、近い将来いつ自分が身内を介護する側に回るか分かりません。介護に関する専門知識と技術があるだけで、介護者も被介護者も安心できます。

介護職員初任者研修の資格所持者が活躍できる職場

介護初任者研修の資格所持者が活躍できる職場には、3つの施設があります。

  • 入所施設:特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設、グループホーム、介護療養型医療施設、サービス付き高齢者住宅など
  • 通所施設:デイサービス、デイケアなど
  • 訪問施設:訪問介護事業所、訪問入浴介護など

介護職員初任者研修の資格を保有することで、無資格者よりも数倍、働く場所の選択肢が増えます。今すぐ介護職に転職するつもりがなくても資格を保有することで将来的に役立つこともあるので、資格取得を検討してみてはいかがでしょうか。

例えば、いくつになっても安定して働きたい方。介護職は慢性的に人材不足のため、仕事にあぶれるということはありません。資格を保有していれば、無資格者よりも有利な条件で即採用ということも十分にあり得ます。

また、家庭の事情などで短時間勤務を希望する方、ダブルワークを希望する方も、介護職員初任者研修の資格取得は有効です。資格があればパートや派遣でも優遇されるし、夜勤のみという働き方も可能です。パートから正社員にシフトチェンジすることだって夢ではありません。

介護職員初任者研修が活かせる転職先・求人情報

介護職員初任者研修が活かせる実際の求人情報をみてみましょう。
(※2021/09現在の情報です。情報は変わる可能性があります。)

優良老人ホームの介護職員・ホームヘルパー求人

無資格からでもOKな正社員求人です。
入浴介助、食事介助、排泄介助、環境整備、レク、行事、イベント、クラブ活動、その他関連するお仕事です。
資格取得支援が充実していて働きやすい環境が整っています。
月給は21万円~。

特別養護老人ホームのショート夜勤の夜勤専従の求人

勤務時間短めで働きやすい夜勤専従のパート・アルバイトの求人です。
特別養護老人ホームで、生活援助、排泄援助、離床、巡回などのお仕事です。
1夜勤11,000円~。介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)手当として2,000円が支給されます。

介護職員初任者研修の資格を持っていると、資格手当があったり、働ける範囲が広がります。
自分に合った職場を見つけやすくなるのもメリットですね。
最新の求人はこちらからご覧ください。

実際に働くにはどうしたらいい?資格を活かした転職のコツ

介護業界においては、実務経験の年数などによりキャリアアップにつながる資格を取得できるステージ(介護人材のキャリアパス)が用意されています。

1つのステージをクリアしたら次のステージに進み、着実なキャリアアップを目指しましょう。ステージが進めば進むほど、仕事の選択肢も増えて給与もアップします。

まず、入門編である介護職員初任者研修に合格したら身体介護が必要な現場や訪問介護事業所で働くことができるようになります。そうした現場で実務経験を積んだら、次は介護福祉士の受験資格でもある「実務者研修」の修了を目指しましょう。これにより、サービス提供責任者として活躍できるようになるほか、たん吸引、経管栄養の処置が可能になります。

介護福祉士実務者研修についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

介護職等の実務経験3年以上、かつ実務者研修修了で、国家資格である介護福祉士国家試験を受験できるようになります。合格すれば転職の際に役職や給与の面でも優遇されるほか、福祉施設はもちろん、医療機関や行政機関、学校などでも勤務することができ、働くフィールドがさらに広がります。

資格を取得したら働ける「介護士の仕事内容」についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

介護職員初任者研修の資格取得条件と難易度について

介護職員初任者研修に興味が沸いた方に向けて、資格取得のための条件や試験の難易度などを下記に説明します。

資格取得条件

年齢や学歴、必要資格、実務経験などの受験資格は特にありません。初任者研修講座を開講している専門のスクールや通信講座において130時間(10項目)のカリキュラムを修了し、筆記試験に合格すれば資格を取得することができます。

案外難しい?!取得の難易度

筆記試験の合格率は明らかにされていませんが、合格ラインは100点満点中70点以上で、しっかりとカリキュラムで学んでいれば9割以上の方が合格できると言われています。万が一不合格であっても、追試を受けることが可能です。

なお、資格を取得するまでの期間は、もっともスタンダードな「通信+通学併用」タイプの講座の場合、最短で約1ヶ月(週4日通学)、長くとも約4ヶ月(週1日通学)程度です。スクールによっては土日や夜間も開講しているため、働きながらでも資格取得を目指せます。

介護職員初任者研修の勉強方法とは?

介護職員初任者研修の勉強方法や試験合格のポイントを確認しておきましょう。

初任者研修取得には独学では取れない

まず知っておきたいのが、初任者研修の資格は独学では取れないということ。
指定の養成機関に通って、カリキュラムを修了しなくてはなりません。その後、試験に合格して得られる資格なのですね。

カリキュラムは、介護の法律や理念を学ぶ「講義」と、車いすなどの使い方を学ぶ「実技」からなります。カリキュラムをすべて履修するには、130時間が必要になります。
カリキュラム履修後に修了試験に合格することで、資格取得ができます。試験と聞くと難しそうな印象がありますが、修了試験は難しくありません。

試験時間は1時間。問題の出題数は32問程度で、以下のような選択問題が主になります。

ノーマライゼーションに関する次の記述のうち、正しくないものを一つ選びなさい。
1.ノーマライゼーションとは、障害の有無に関わらず、誰でも参加することができ、普通に暮らせる社会を目指すという意味である。
2.ノーマライゼーションの理念は、デンマークのバンク・ミケルセンによってはじめて提唱された。
3.アメリカのADA法(障害をもつアメリカ人法)は、ノーマライゼーションの考え方が発展し制定されたものである。
4.障害児教育の分野では、ノーマライゼーションの理念に基づき積極的にインテグレーションの考え方が用いられている。
5.高齢者介護においては、地域社会でさまざまな人々と関わりながら、また少人数の規模で生活することが、ノーマライゼーションの理念を具現化したものである。

出典:介護職員初任者研修 修了試験 模擬問題

講義内容をきちんと理解していれば誰でも合格可能です。もしも、不合格でも合格するまで追試を受けられるので安心です。

基本は講義の復習で合格可能!

初任者研修の試験は、講義で教わったことから出題されます。基本的に先生が「大切!」と指摘された部分を覚えておくと大丈夫です。
課題のレポートの見直しをしたり、日頃から復習を習慣づけておくと、合格可能でしょう。

不安ならアプリやテキストを使って勉強する

修了試験は難易度も低く、日頃からの復習で合格可能です。さらに、合格するまで何度も追試を受けることもできます。

それでもやはり不安が残るならば、自分で少しだけ勉強しておくと良いでしょう。介護職員初任者研修の『修了試験対策』の参考書や問題集が販売されているので、勉強してみましょう。

また、最近では筆記試験の対策アプリも開発されています。


アプリなら空き時間を有効活用できますから、時間がない方におすすめです。ぜひインストールしてみてください。

介護業界の登竜門!介護職員初任者研修取得を目指そう

介護士が資格の勉強をしているイメージ

これから介護職を目指す方であれば、介護職員初任者研修の取得はキャリアパスのカードを手に入れることになります。そうでない方であっても、高齢化社会がますます深刻化している日本において、介護職員初任者研修で得た介護の知識と技術は必ず役に立つはずです。

受験資格もなく働きながら取得できる上に、何かとメリットが大きい資格なので、介護職に興味がある方、今後キャリアアップを目指す方は、ぜひ資格取得を検討してみてはいかがでしょうか。

監修者コメント

どのようなベテランの介護職であっても、必ずはじめの一歩、つまり介護の基礎を学び初めて仕事に就いた日があるはずです。まだ資格を手にしていない皆さまにも、介護の基礎を学ぶ機会は、平等にあります。あとは皆さまの気持ち一つというところです。介護職員初任者研修は、介護施設の専門職のみならず、皆さまのご家庭でも役立つこともあるかもしれません。大勢の人から頼りにされる立派な専門資格ということができるでしょう。ぜひ、皆さまも、介護職員初任者研修を通して、専門職の扉を開いて頂きたいと存じます。

◎監修:健康科学大学 准教授 梅沢佳裕

この記事を監修した人

梅沢 佳裕

健康科学大学 健康科学部 福祉心理学科 准教授
東北福祉大学社会福祉学部、日本福祉大学大学院社会福祉学専攻修了、社会福祉学修士。
介護専門学校の助教員を経て、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター相談員を歴任する。その後、デイサービスやグループホームの立上げに関わり、自らも管理者となる。2008年に「福祉と介護研究所(個人事業)」を設立。2017年より社名を「福祉と介護研究会35」へと変更し、介護士・相談員・ケアマネジャーなど実務者へのスキルアップ研修を行うが2019年12月に閉鎖。2018年4月から日本福祉大学 助教。2019年4月から健康科学大学 准教授(現在)。

社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター2級

【著書】
「特養・デイサービスの生活相談員 仕事ハンドブック」(中央法規),「施設職員のための介護記録の書き方」(雲母書房),「生活相談員~その役割と仕事力」(雲母書房),「生活リハビリ式記録のススメ」(筒井書房),「よくわかる通所介護計画のつくりかた」(雲母書房)
【雑誌連載】
「支援・生活相談員」 季刊誌(日総研出版),「おはよう21」月刊誌(中央法規出版),「倫理的側面から見直す 不適切記録・記載表現」(日総研出版)など多数.
【監修】
「ポケット版 介護なんでも事典」(主婦の友社),「そのまま使える!介護記録の書き方&文例集」(西東社)